校正の存在価値を再認識する
この文章もまた、校正されている。
通常、編集者の手に渡った原稿はゲラになった段階で校正者のチェックが書き入れられ、筆者のもとへ戻される。赤字のないゲラは(たぶん)ない。誤字脱字、数字、語法、引用部分の写し間違い、事実関係……校正者の仔細な点検があればこそ文章は整い、世の中へ出てゆく。私など、もしあのときあの指摘がなかったら、と想像しただけで血の気が引く件は、自慢じゃないが、いくつもある。
文章は、いわば校正者との「共同作」だ。しかし、読まれる段階では赤字の痕跡は失せ、当初から整っていたかのよう。その一方、インターネットの普及によって校正が省かれ、誤字脱字や変換ミス、事実誤認、デマも横行している。
「文化の衰退」。ノンフィクション作家の著者は、こう断じる。では、校正によって文化はどのように継承され、育まれてきたのか。現場の校正者に取材を進め、彼らの仕事の内実に光を当ててゆく。
冒頭に登場するキャリア25年以上のベテラン校正者は言う。
「私が常に思っているのは、この本で不当に不利益を被ったり、傷ついたりする人があってはならないということです。間違いは不利益をもたらします」
また、国語辞典『言海』を270点も揃えているという校正者によれば“校正とは文章を理解するのではなく、辞書を駆使して一字一字を切断、徹底的に「確認」すること”。新聞社のなかでもとりわけ校正に注力した大阪毎日新聞社には、同社校正部編『校正の研究』なる読本があるという。これを紐解いた著者は、校正の極意は「忠実と義務」「もしや日本の校正は武士道に通じているのだろうか」。
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source : 文藝春秋 2024年12月号