きわめて刺激的な未来の予言の書
コンピュータの性能が指数関数的に向上することで、技術なのか魔術なのかわからないことが次々と起き、やがて人間とAIが融合する「シンギュラリティ」が訪れるのだといわれている。とはいえ、日々の単調な生活からこの人類史的な出来事を実感することは難しい。
ユートピアやディストピアを描く未来予測はたくさんあるが、国家がベンチャー企業になって、イーロン・マスクのようなCEOによって運営されるとか、巨大化したプラットフォーマーが支配するテクノ封建制が到来し、ひとびとは「クラウド農奴」として生きていくしかないとかの、出来の悪いSFのような安直なものばかりでがっかりだ。
成田悠輔さんは、すでに大きな評判になっている『22世紀の資本主義』で、AIとビッグデータによって「お金が絶滅する」というきわめて刺激的な未来を予言する。
市場はお金(価格)によって駆動する「自生的コンピュータ」で、「ゆたかになりたい」「もっと幸せになりたい」というみんなの欲望によって全体最適を実現するという驚くべき仕事をしている。これはあまりにも強力なので、旧ソ連の社会主義をはじめ、市場原理に挑戦した制度はすべて破綻し消滅していった。
市場経済では、あらゆるものに価格がつけられる。こうして物質的な欲望だけでなく、愛や幸福なども含め、「お金で買えないもの」はなくなった。恋愛なんていうコスパもタイパも悪いことをするよりも、お金で買ってしまえばいいのだ(これが「ホス狂い」の論理だろう)。
こうしてお金は「最強」になったが、それはこの世界があまりに複雑で、その価値をお金で測る以外の方法を知らなかったからだ。でもテクノロジーによって、複雑なものを複雑なまま、一つひとつ個別に評価できるようになったとしたら、なにが起きるだろうかと成田さんは問う。

そうした「測れない経済」では、シャンパンを何本入れたかでホストの“愛”を競うような、大雑把な測り方は意味がなくなる。わたしたちは膨大で多種多様なデータのかたまりになり、超強力なAIがつくる「招き猫アルゴリズム」によって、お金を介さずに最適な相手とマッチングできるのだ。
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