家族史を読む醍醐味

　人は良くも悪くも環境に左右されながら自分を形づくっていく。とりわけ親からの影響は大きいが、その親もまた、親の影響を受けており、さらにその親も親の……。

　人生の折り返し地点を迎えると、先祖のことが急に気になるようになる。自分はいったい、どこから来ているのか。そんな素朴な疑問が湧き上がるようになり、家族史への探究に人を向わせるのだろう。

　北海道生まれの小説家、河﨑秋子さんの新作『父が牛飼いになった理由』は自身のルーツを追いかけたノンフィクション作品だ。

　河﨑さんが先祖のことを調べようと思ったきっかけは、父だった。「甘いものとタバコとカヌー作り」が大好きで、〈柔らかさと頑なさが同居していた〉。そんな父が突然、脳卒中で倒れ、高次脳機能障害を負ったのだ。自我や記憶を失い、会話のできなくなった父を前に、河﨑さんはもっと話を聞いておけばよかったと後悔する。

　公務員だった父が突然、「牛飼い（酪農家）」になったのはなぜなのか。その理由を直接聞くことは、もうできなくなった。疑問は次々と湧き上がってくる。父はどう生まれ育ったのか、祖父母や兄弟から、どのような影響を受けたのか。

　どうせ調べるならば、遡れるだけ遡ってみよう。そんなふうに河﨑さんは腹を括ったようである。

　それからは河﨑さんの引きの強さもあり、なんと戦国時代からの家の歴史が明らかになる。

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