『脱露 シベリア民間人抑留、凍土からの帰還』石村博子/KADOKAWA
『奪還 日本人難民6万人を救った男』城内康伸/新潮社
『地震と虐殺 1923-2024』安田浩一/中央公論新社
『脱露』を落涙せずに読み進められる人がいるだろうか。大日本帝国の一部であった南樺太(現サハリン)は敗戦後、ソ連軍に占領された。民間の罪なき日本人が次々と逮捕され、シベリア送りに。刑期を終えても帰国は許されず、労働力としてソ連国内の僻地へ。自分がどこにいるのかわからない。なぜ、こんなことになってしまったのか。それは祖国日本が元兵士のシベリア抑留者だけを帰国させ、彼ら民間人は「自由意思で残留した」と見なし、救出しなかったからだ。2度も国に見捨てられた彼らは、1991年のソ連崩壊後、ようやく“発見”される。半世紀を経て70代となった彼らは一時帰国し、父母の墓前で慟哭する。秘された歴史を掘り起こした大変な労作だ。
南樺太と同じように北朝鮮もまた敗戦後、ソ連占領下となり、約25万人もの日本人が取り残された。その日本人難民を束ねて38度線を越える決死の集団脱出を成功させたのは、それまで“アカ”と白眼視されていた一民間人の松村義士男。『奪還』はこの「北朝鮮引き揚げの英雄」に初めて光をあて、歴史の空白を明らかにした作品だ。ユダヤ人を助けた杉原千畝の功績は多くの人に称えられているが、日本人難民を救った松村の名を知る人はいない。北朝鮮からの、この奇跡的な脱出劇が検証されることもなかった。それはなぜなのか。松村の戦後日本での、あまりにも寂しい後半生は何を物語っているのだろう。
『地震と虐殺』の著者は関東大震災時に起こった朝鮮人虐殺の各現場を訪れ、調査を尽して思いを馳せた。デマはなぜ流れたのか。どれほど残虐な行為であったか。「日本を取り戻す」「国を守る」。そんな勇ましい言葉を昨今よく耳にする。だが、「愛国」は排他主義と表裏一体だ。
不都合な真実に目をつぶり、歴史を美化しようとする近年の風潮に危惧を覚える。日本という国、そして日本人とは何なのか。秘された歴史にこそ、目を背けてはならない本質があることを教えてくれる3冊だ。
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