ダーチャ・マライーニ著 望月紀子訳「わたしの人生」

石井 妙子 ノンフィクション作家
エンタメ 読書

愛した日本で強制収容所に送られたイタリア人たち

 書くことを、ずっとためらってきた──。

 1936年生まれ88歳の著者は、これまでイタリア本国で、詩や戯曲、自伝的小説を発表し、日本文学の紹介にも努めてきた。だが、ひとつだけ封印してきた過去が彼女にはあった。

「収容所での恐ろしい経験など話さないで心の片隅に閉じこめておくほうがいいよ、秘密を守ろうとする本能がこうささやく。それでももうひとつの声、あまり説得力はないけれどもっと執拗な声が、話してと急きたてる。話して、思い出して、証言してと」

ダーチャ・マライーニ著 望月紀子訳『わたしの人生』(新潮クレスト・ブックス)2145円(税込)

 父は文化人類学者で9カ国語を話す語学の天才。母はトルストイに傾倒した祖父の血を引く公爵家の娘。そんな両親の間に著者は生まれた。

 父が北海道帝国大学でアイヌ研究をすることになり、2歳で来日し、その後、京都に移り住むと、日本人乳母から毎日、昔話や子守歌、民謡を聞かされて育った。イタリア語よりも先に京都弁を覚え、自分を「日本人」だと信じ込んでいたという。

 四季の移ろいの中で過ぎる日常。俳句を諳んじる金髪の少女はどこに行っても人気者だった。

 しかし、そんな日々が突然、暗転する。日本の同盟国だったイタリアが連合軍に降伏した1943年秋のことだ。

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source : 文藝春秋 2025年2月号

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