世界各地に赴き、その場所の「地表」を構図、陽光の当たり方などの厳密なルールを定めて撮影する。この一貫したコンセプトで作品を発表し続ける写真家・松江泰治さんの初の回顧展「地名事典│gazetteer」が広島市現代美術館で開催中だ。それにしても、なぜ地表ばかりを写真に?
「屋外の景色は、空と水と地面でできています。そのうち気体と液体は、陽光を反射しないので写真にははっきり写らない。そこで克明に写る地面だけを撮ることになります」
感情や情緒を排し、客観的な視点で撮られた写真の数々。その理知的な作風は、東京大学理学部地理学科出身というキャリアとも無関係ではない。
「研究を重ねるのは、科学でも芸術でも同じです。新しく、面白いものを創造することに価値があるのです」
撮影のためには辺境の地にも。それだけに苦労も多い。
「酷暑や酷寒はもちろんですが、場所によってはスリや強盗もいるし、テロも怖い。ゾウに威嚇されたり、ヒヒに襲われたこともある」という。
「30年以上、同じ事を続けてきました。道具や表現を変えても、根幹は常に同じです。人生は短いのですから、余計なことをやっている暇はありません」
INFORMATION
「松江泰治 地名事典│gazetteer」展
2月24日まで開催
https://www.hiroshima-moca.jp/taiji_matsue/