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「小説執筆とIT企業の経営、僕は“両極”にあるものが好きなんです」――芥川賞受賞・上田岳弘インタビュー

『ニムロッド』で第160回芥川賞を受賞

2019/01/23
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中学時代、『ノルウェイの森』を読む

 二足の草鞋を履くとなると、頭の切り替えや時間の使い方はうまくできるものか。

「いまは朝5時半から7時半まで小説を書いて、そのあと出社して、夜に帰るというサイクルです。土日は休みにしたいんですが、連載を抱えていたりすると書かざるを得なくなりますね」

 文学とビジネスには共通するところもあると感じているそうだ。

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「小説を書くことは、対象についての核となる部分を探り当てていく作業。対するビジネスの本質は課題解決。その課題を解決するにはどうすればいいか探っていく。頭のなかの同じような部分を使って、似たロジックを用いているような気はしますよ」

©平松市聖/文藝春秋

 小説を書き継いできて芥川賞を受賞し……、といういまの状況は、小さいころから想定していたものなのかどうか。

「恥ずかしくて人にはあまり言ってなかったですけど、わりと早いうちから作家になろうと漠然とは考えていました。両親も兄妹も、皆が漫画を含めて本をたくさん買ってくる家庭だったので、小さいころは雑読というか乱読を繰り返していました。漫画から司馬遼太郎、夏目漱石まで転がっていたので、あれこれ読んでいました。

 中学生のとき、姉が誰かから借りてきた村上春樹『ノルウェイの森』を読んで、純文学――という呼び方もまだ知りませんでしたが――のほうに自分の志向があるなと感じました。そこから純文学方面の作品を読み進めて、読んだらやはり書きたくなって、という道をたどりました」

文章の持つロマン

 スケールが大きく明確な世界観を持つ作風から考えると、その構想力を漫画や映画など他のジャンルで発揮することだって考えられたはず。なぜ、小説だったのだろう。

「文章って誰でも書けて、レベルの判定がけっこう難しいじゃないですか。どういうのがいい文章なのかは、いろいろな見方がある。そんな曖昧な材料を使ってつくるところが、小説はおもしろい。無差別級な感じが好きです。最近はメールを打ち続けるのが仕事だったりする人も多いし、誰もが日々膨大に文章を書いている。そういう“日用品”を使ってこの世にない新しい芸術作品をつくるところに、ある種のロマンを感じたりしています」

©山元茂樹/文藝春秋

 誰もが日々使う文章という素朴な道具だけで、今作のような大きなストーリーを紡いでしまうことに、改めて驚嘆してしまう。

「『ニムロッド』に関していうと、コンテンポラリーアートみたいなかたちになってもいいやという気持ちで書きました。ストーリーラインなどはあまり気にせず、伸びていく方向にいけばいい、最終的に何らかの表現に行き着けばと考えていました。

 先に言った通り、仮想通貨と『駄目な飛行機コレクション』がどこかでつながっているだろうといういわば直感に頼って始めたので、これは本当にどう転がっていくか自分でもわからなかった。直感を描写し文章に落とし込んでいくと、幸いぼんやりとつながりができてイメージが浮かび上がり、陽炎のようにストーリーが見えてきたのでよかった。『コンテンポラリーアートのように』という、やりたかったことがひとつ達成できた作品だといえそうです」

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

上田 岳弘

講談社

2019年1月26日 発売

「小説執筆とIT企業の経営、僕は“両極”にあるものが好きなんです」――芥川賞受賞・上田岳弘インタビュー

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