「モノに感謝する発想」が米国人にとっては衝撃
『KonMari』には、自己啓発要素に加えて「東洋スピリチュアリティ」と評される個性がある。なかでも注目を集めたのは、アニミズム的ともされる「モノに対して尊敬の念を抱き感謝する発想」だ。近藤は、家に対して祈りを捧げるし、捨てるシャツにすら感謝する(「自分はこういうものは好きではないと気づかせてくれたから」という理由で)。
こうした発想はアメリカで衝撃を呼び、数々のメディアが「非西洋的な東洋の神秘主義」な番組だと分析していった。こうした反応には製作側も意識的だったようで、The Hollywood Reporterに取材されたプロデューサーは、番組の個性を「霊的であること」だと定義している。
そもそも、2014年ごろに著作がヒットした頃から、近藤麻理恵はアメリカでそうした受容をされてきた。アメリカのAmazonにおいて、彼女の著作は「宗教&スピリチュアリティ」ジャンルの東洋部門に分類されている。
日本発の国際コンテンツは禅、“生き甲斐”、森林浴?
番組の成功を受けて、日本の文化イメージに注目する向きも生じた。日本文化が「穏やか/精神的なもの」としてマーケティングされてきた側面があると説くNewYorkTimesの論考では、日本発の国際コンテンツとして禅、“生き甲斐”、森林浴が挙げられている。
生き甲斐とは、そのまま「生きることの張り合い」を意味する単語だが、西洋では新鮮な概念だったようで、昨今では人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に出演するメイジー・ウィリアムズが脇腹に「生き甲斐」という文字のタトゥーを入れるなど、一種の哲学としてブームを起こしている。
モノへの敬意を説く『KonMari』もまた、人生を豊かにする斬新な思考法を西洋人に教授してくれるコンテンツだ。アメリカのステレオタイプ的に言ってしまえば「西洋人に人生の真価を教えてくれる日本のソフトなマインドフルネス」といったイメージだろうか。
『KonMari』リリース前に人気を集めた日本製番組『テラスハウス』でも、アメリカで注目を集めたのは、出演者たちの「思いやりや礼節」を感じさせるソフトでマインドフルネスなコミュニケーションだった。家に祈りを捧げるような『Konmari』はともかく、若者たちの生活模様をうつすだけの『テラスハウス』すら「マインドフルネス」と評されるとは驚きだが、アニメやゲーム由来の“ポップ”なイメージのほかに“ソフトで精神的”といった日本文化イメージが形成されつつあることは中々興味深い。