昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/07/09

genre : ライフ, 社会, 医療

社会的な地位や知名度のある人に本当にやってほしいこと

 ここまでお読みいただいて、聡明な方には問題点がわかってきたと思います。今回は日本の移植医療の経緯とともに3つの問題点を取り上げてきました。

 第一に、誤った認識である「移植はお金を集めて海外でやるもの」という移植ツーリズムを報道で広めるのは良くないということ。第二に、日本は移植技術があり、国民の意識も高いのですが、圧倒的にドナーが足りていないということ。第三に、移植の4つの権利を多くの人が知らないということです。

 まず前澤社長や坂上氏が、SNSや公共の電波を使って移植ツーリズムを推し進めるという認識の低さに絶望します。そして第二の問題点である日本のドナーを増やそうとする努力はありません。第三の問題点である移植の4つの権利は、移植議論の土台となるべき前提ですが、おそらく認識すらされていないと思われます。報道などでも取り上げられることはほとんど皆無です。

ZOZOの前澤友作社長 ©AFLO

 前澤社長と坂上氏の努力は方向が間違っています。とても影響力がある方々ですから、もし前澤社長がこう言ったら絶賛されることでしょう。

「ZOZO利用者でドナーカード書いた人には4億円分の割引します」(100円割引で400万人ドナーカード記載!)

「ZOZOの全社員にドナーカード書かせます」(もちろん、臓器提供を「する」「しない」はどちらでもいい)

 あるいは坂上氏が、

「テレビを見ている人、みんな運転免許や保険証でドナーカード記載しよう」

 と言ってくれたら、日本中の移植関係者はむせび泣くと思います。

「政治家全員、ドナーカード記載を立候補条件にしろ」

「みんなが移植の4つの権利を知らないのは政治の怠慢だ」

 と政治批判するなら、拍手喝采することでしょう。

このままでは10年後も同じように募金活動

 でも実際にはいつまでも、

「金をあつめて海外で移植」

「金も出さないで何言っているの」

 という次元で移植が語られているのが本当に残念です。

 私は今回の前澤社長、坂上氏の行動や発言内容は日本の移植について最悪に近い方向だと思っています。移植医療にとっては二重、三重に悪手です。

©iStock.com

 まず、イスタンブール宣言の趣旨に反する渡航移植を行うことによって海外で非難されるという倫理的、道義的な問題があります。そして、日本の移植医療の根本的な問題であるドナー不足に世間の注目が集まらず、結果的により多くの患者が救われる機会が失われてしまいます。それにもかかわらず有名人が繰り返し支援をすることで、海外移植が正しいことだと多くの人が思いこんでしまいます。

 目の前で困っている子供がいると多くの方が言いますが、これらの問題点を一切解決しないまま移植ツーリズムのために高額募金を集める切羽詰まった報道が10年以上繰り返されています。このままでは10年後にも同じように募金活動をしていることになります。渡航移植を美談にせず、日本の移植医療が変わってほしいと願っています。

・参考文献
1)「臓器移植法施行から20年:わが国における臓器移植の現状と展望」日本医師会雑誌第146巻第9号
2)公益社団法人日本臓器移植ネットワーク ホームページ(令和1年7月5日閲覧)
3)「脳死と臓器移植の問題」山内 義廣 法政論叢 46(1), 192-204, 2009

この記事の写真(8枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー