「松重豊が出ているシーンだけ映画に見えるから偉い」
松重豊さんは、『孤独のグルメ』ですっかり売れっ子になりました。映画では黒沢清監督の『地獄の警備員』(92年)で、元力士の連続殺人鬼である富士丸役が、顔はほとんど照明で隠された状態でしたが、その存在感によって初主演といえるでしょう。同じく黒沢監督の『カリスマ』(99年)では、役所広司さんに二輪車に乗せられて引きずられていく、なにかまがまがしい場面がキービジュアルにもなっていました。作品数でいえば大杉漣さんこそ黒沢作品の常連ですし、松重さんはいまやお茶の間にも朗らかなイメージが定着しました。でも、それ以前の松重さんがフィルムに与える不安な感触を、もう少し黒沢清作品に残して欲しかったと、ファンとしては詮無いことですが思います。
その昔、映画評で有名な「m@stervision」というサイトがありました。当時は低予算Vシネをソフト化の際に「劇場公開」と銘打つため、ほんとに安い作りの作品がレイトショーでかかったりしていたのですが、そのとき「松重豊が出ているシーンだけ映画に見えるから偉い」という旨をレビューで書かれていました。わたしも同時期にまさにそんな日本映画を見て、松重さんが映画に持たせる説得力に感嘆していたので、いまだにその思い入れは消えないのです。
光石研とテレンス・マリックと「博多っ子」
光石研さんはデビューが『博多っ子純情』(78年)。2013年に晴れてソフト化されました。セル版には、わたしが光石さんにインタビューしたリーフレットが封入されているので、良かったら買ってください! この映画の監督は曾根中生。光石さんは本作の撮影中、不良役の俳優が何度も監督からNGを出されるのを見て、(どれだけやるんだろう)と思ったそうですが、後に監督に、その場面についてお尋ねする機会がありました。それは光石さんが、憧れの不良の真似をするきっかけのシーンでした。順撮りではないため、先に光石さんのシーンを撮っており、監督は「研の演技が良すぎたから、その見本はもっと良くなきゃあかんでしょう」とのことで、長時間のダメ出しになったのでした。
光石さんといえば、テレンス・マリック監督の『シン・レッド・ライン』(98年)で、編集者がカットしようとしていた出演場面を、「彼のセリフは残そう」と監督に決断させた、世界のテレンス・マリックにも認められた男。また、黒沢清組が多いバイプレイヤーズの中で、光石さんは青山真治監督組の顔、というのもチェックしておきたいところです。
この番組は、九州の方言も楽しみですよね。初回の役所広司さんと光石さんや、松重さんと光石さんが、まあ九州って広いですけど、九州弁で会話をしているのが良い雰囲気です。ちなみに光石さんは北九州出身なので、博多出身の松重さんに「光石さんは北九州のくせに『博多っ子純情』に出て」と会うたびに言われたそうです。
博多っ子純情
発売元:DIGレーベル(株式会社ディメンション)
品番:RFD-1135
本編:94分
劇場公開年:1978年
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