いまから20年前のきょう、1997年2月23日、イギリス・スコットランドのロスリン研究所のイアン・ウィルマット教授により、前年7月に体細胞クローン羊「ドリー」が生まれたことが発表され、世界中に波紋を呼んだ。

 クローンとは、まったく同じ遺伝子組成を持った複数の生物のこと。なかでも体細胞クローンは、体細胞(生殖細胞=精子・卵子以外の細胞のこと)から生まれたクローンを指す。その方法は、体細胞の核を、事前に核を除いた未受精卵へ移植するというもので、すでに1962年には、イギリスの生物学者ジョン・ガードンが、カエルの体細胞クローンを作製していた(ガードンは2012年に山中伸弥とともにノーベル生理学・医学賞を受賞する)。しかし、哺乳類での成功例は、羊のドリーが最初である。

 ドリー誕生の発表を受け、翌98年には日本でも近畿大学が牛の成体(大人)の体細胞を用いたクローン牛の誕生に成功するなど、各国で哺乳類の体細胞クローンが作成された。ドリーを生んだロスリン研究所でも、97年7月には、羊の胎児の細胞を使ったクローン羊「ポリー」が誕生。ポリーに用いられた細胞には、人間の遺伝子が組みこまれていた。この遺伝子は血友病の治療に必要なたんぱく質を合成する遺伝子で、将来的にはこのたんぱく質を羊の乳から分泌させ、治療薬に利用することが期待された(科学技術庁「クローンって何?」)。

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ウィルマット博士とドリー ©getty

 このようにクローン技術の研究には、医学への貢献のほか、肉質のよい牛や乳量の多い牛を大量生産したり、希少動物を絶滅の危機から防いだりするなど、さまざまな可能性が見出せる。だが、一方で、安全面や倫理面から危惧する声も強い。ドリーの誕生が発表されると、世界保健機関(WHO)やユネスコなどの国際機関、また米デンバーでの主要国首脳会議(サミット)でも、クローン技術の人間への適用を禁止する決議や宣言がなされた。

 2003年、ドリーは普通の羊より老化が早く進み、肺の疾患も患っていたため安楽死処分となる。ただし、ドリーと同じ体細胞を用いて2007年に誕生した4匹のクローン羊は、その後も大きな問題なく年を重ねているという(「WIRED」2016年7月28日付)。なお、ドリーを誕生させたウィルマットは、2008年に人間の卵子からつくるクローン胚研究を断念、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象とするiPS細胞(万能細胞)の研究に転じている。