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読者からの質問

●作品の構想が思いつくのはどういう時ですか。(20代女性)

道尾 設定なんかのきっかけは、人に言われたことだったりいろいろあるんですけれど、構想はもちろん全部自分で作っているんですよね。ううん、どういう時に思いつくか、たぶん世の中で一番それを知りたいのは僕ですよ(笑)。そしたら勝算のあるセオリーを繰り返して、無駄な時間を過ごさずにすみますから。

●道尾さんはメタルがお好きで、その中でもメタリカが特に良いというツイートを先日読んだのですが、なにかオススメの曲があれば教えてください。また、道尾さんにとって音楽は作家活動でのストレスのはけ口になっているのでしょうか?(10代女性)

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道尾 「All Nightmare Long」を聴きながら『貘の檻』を読むのがオススメです。最近では、音楽は聴くよりもやる機会が多くなっていますね。NHKの「フックブックロー」で有名な谷本賢一郎さんのバンドで、ボーンズというアイルランドの楽器を叩いたり、ギターを弾いたり、歌ったりしています。とくにボーンズはパーカッションなので、そのダイナミズム、Aメロ、Bメロ、サビっていうのが、すごく小説の構造と似ているんですよ。だからどっちも刺激し合って、どっちも良くなっている感じですね。歌詞も書かせてもらっているので、短い文章でイメージを喚起させる技術も身についてくれそうです。

●こんにちは。僕は道尾さんと同じで高校まで小説をほとんど読まない人間でした。そして大学生となった今、読書の大切さに気付いて、自分でも小説を書いてみたいと思っています。しかし、自分には小説の腕を上げる方法が分かりません。とにかく完成させることが大切だ、とはよく聞きますが、では、その完成させた小説を次に活かすために道尾さんはどんなことをしていましたか?(10代男性)

道尾 まず誰かに読んでもらって、意見を聞くことですね。その機会が作れない場合は、1か月とか2か月とか時間をおいて読み返すと、わりと客観的な目で読み直せます。それをやって、その小説のつまらないところをしっかり見極めることが大事だと思います。

●道尾さんにとって物語の材料は自分の内側から出てくるものなのでしょうか?それとも外側の情報などを選びながら採用されるのでしょうか?(30代男性)

道尾 材料のほとんどの場合は内側からですが、きっかけはほとんどが外側からですね。

●最近『骸の爪』を読み返して仏像の詳細な話に感動と関心を持ちました。作品を作る際の情報収集で苦労したことや、逆に面白いと思ったことはありますか。さらに、こういう世界を調べてみたいなど次回作への考えはありますか。(20代女性)

道尾 前から仏像が大好きで、ずっと調べていたんです。だから資料とかは収集していないですよ。あれはソラで書いて、資料は確認用に後から必要なものだけ使いました。今後書いてみたい世界でいうと、漁師が出てくる話が書きたいですね。

●最近ではインターネットで本を購入する人が増えている気がするのですが、個人的には、書店で自ら本を手に取り購入することが好きです。道尾さんは、書店・本屋について魅力を感じることはありますか? (20代女性)

道尾 やはりインターネットで本を買うのはなるべく避けています。書店員さんが何を推しているのかというのは、ネット書店のレビューの数千倍信用できますし。ただ、ネットの書店だと欲しい本に直接リンクできるので偶然の出会いがない、なんて言いますけれど、僕はそれには賛成しません。以前ニコルソン・ベイカーの『室温』という本を買おうとして、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの戯曲『室温』をクリックしてしまったことがあって。その頃はまだケラさんのことを全然知らなくて外国人だと思っていたくらいで、本が届いた時に「あれ?登場人物が全員日本人?」と首をひねり、ためしに読んでみたら、ひっくり返るくらい面白かった。それがケラさんとの出会いだったんですよ。今では大ファンで、劇場にも通っています。

●『笑うハーレキン』の、棚と壁の隙間はなんのためのものだったのでしょうか?(20代男性)

道尾 これはまさに読者の想像で楽しむためのものです。もしこうだったらとても怖いなという想像がたくさんできると思います。

●作家になってよかった、と一番強く感じた出来事は何ですか?(20代女性)

道尾 やっぱり、時折言われる「小説を読んだことがなかったけれども、道尾さんの小説を読んでからすごく好きになって、今はいろんな本を読むようになりました」と言われることでしょうか。それは本当に、自分がお世話になった出版業界、小説業界に貢献できているとリアルに感じられる瞬間ですから。

●本を1冊も読んだことがない友人に『ソロモンの犬』を貸したところ読み切って、本を読むのが好きになったと言ってくれました。道尾さんの他の作品もオススメしているのですが、道尾さんからも、笑っちゃうような面白い本のオススメがあったら教えてほしいです。(20代女性)

道尾 本を読むのが好きになったということで、今は読むエネルギーがあると思うので、わりと厚めの本でも大丈夫だと思うんですよ。向田邦子さんが小説化して未完だったものを烏兎沼佳代さんが完成させた『完本 寺内貫太郎一家』をオススメします。向田さんの意向をくんで、向田さんの小説のスタイルを真似て書いたものです。僕はずっと連載で追いかけて読んでいて、単行本化された時に帯に推薦文を書かせてもらいました。新潮社から刊行されています。

●編集者とのつきあいで、道尾さんが気をつけていることは? 新人の心得とは何でしょうか? 書き続けられるようにするために、どんな努力が必要ですか?(30代男性)

道尾 この質問、若手の作家の人からでしょうか。もしかして小島達矢じゃないでしょうね?(笑) 編集者とのつきあいで気をつけているのは、なるべく経費を使わせないということと、受けた恩を返すということ。編集者の言った、ふとしたひと言が、物語を作るのに役立ったとしたら、あとで必ずその人に恩返しするようにしています。

 新人の心得は、初心を思い出さないことです。初心なんてものは、現実を知らない時に抱いたものなので、それより日々もっと志が上がっていなきゃいけないはずなんですね。初心を思い出しているようでは駄目です。

 書き続けるためには、自分の子どもを愛することですよね。たとえば僕は今26作を刊行しているので、26人の子供がいるとして、その子たちを本当に心から愛することです。

●夢を叶える一番の方法は何だと思いますか? 道尾さんの夢は何ですか?(20代男性)

道尾 夢を叶える一番の方法は、夢をたくさん持つことだと思います。若いときから必死で努力し続けていれば、ストレートに叶う夢もあるだろうし、あとから回り道して叶う夢もあります。僕の場合、前者が小説家になることで、後者が音楽を演奏してお金をもらうことでした。どっちも諦めずにいたら、どっちも叶いました。音楽活動をしていると、一緒に活動している歌手のファンの人が僕の本を読むようになってくれたり、逆に僕の読者がライブに来て、その歌手のファンになってくれたりして、どちらも楽しんでくれる人数が増えていくので、とても嬉しいです。今の夢は、そうですね、お互いにプラスの効果を与え合っている小説と音楽の世界を、いつまでも大事にすることです。

●道尾さん作品の登場人物には、実在するモデルがいるのですか?(30代女性)

道尾 知らない感情は書けないので、小説のキャラクター一人一人、僕の一部である場合が多いです。

●道尾さんはすごくアクティブですが、まったく予定のない日はあるのですか? 仕事も人と会う予定もまったくない日は何をしていますか?(30代女性)

道尾 休日はまずありません。人と会う予定のない日もありますけれど、普段やりたくてもできないことが積み重なっていくので、時間がある時はそれをこなしていくようにしています。やりたいことが多すぎて、たぶん10分の1もこなせていないんですけど。

●先日道尾さんのサイン色紙を手に入れたのですが、その達筆さに驚きました。エッセイ集『プロムナード』に掲載されている絵本の『緑色のうさぎの話』の手書き文字と全然違う! 練習されたんですか? 文字と生きる作家さんにとって、字の形って大事なんですか?(10代女性)

プロムナード (文春文庫)

道尾 秀介(著)

文藝春秋
2014年7月10日 発売

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道尾 あはは、よく言われるんですけれど、あの絵本の文字はわざと子どもっぽく、汚く書いているだけなんですよ。あんな字を書く17歳がいたら問題でしょ。

 もともと手紙を書くのが好きで、縦書きは好きですが横書きは苦手です。作家によっては本人と担当編集者にしか読めない字で書く人もいますし、字の巧さはまったく関係ないと思いますよ。ただ、手書きっていいんですよね。今はパソコンで書く人が多いけれど、手書きの頃の作家の句読点のリズムって、体の呼吸に合っている。名文と言われる文章を縦書きのノートに写すとよく分かります。