1ページ目から読む
2/3ページ目

真似しやすい「漫才コント」でサンドがすごいのはなぜか

 このランキングもそうですが、好きな芸人ランキングとか芸人の好感度でも最近はいつもサンドウィッチマンが1位ですよね。それはやっぱり見た目と人柄のギャップが大きいからだと僕は思っています。2人とも一見するとちょっと怖いイメージあると思うんですけど、性格はすごく穏やかで優しい。このギャップが多くの人に愛される理由の1つだと思います。

 あと、芸人目線で言うと、彼らの漫才は一般の人にもすごく分かりやすい作りで、ジャンルで言うと漫才の途中からコントに入る「漫才コント」が主流です。例えば2人がピザ屋の配達人とお客さんなど、役を演じながらネタが進んでいく漫才です。見ている人もストーリーを理解しやすく、世界観に入りやすいのでストレスを感じずにすぐに「面白い!」と思えるネタです。

 

 最近は僕も漫才を教える側になって、学生さんや若手のネタを見ることが増えたんですが、サンドウィッチマンが優勝して以降「漫才コント」をやる人が多い多い。見ていて分かりやすいので、真似しやすいんですよね。だけどサンドウィッチマンと同じように笑いをとるための個性を出すことはすごく難しい。やっぱり2人は一芸人として個性が突出していて、能力が高い。

ADVERTISEMENT

「前年優勝がチュートリアルだった」の思わぬ影響力

 あと、僕がこのランキングを見て一番思ったのは「チュートリアルがもっと上の順位でも良かったんじゃないかな」ということ。歴代チャンピオンのなかで初めて、審査員の満場一致によって優勝したんですよ!? ここからは僕の勝手な見解ですが、サンドウィッチマンの優勝はチュートリアルの優勝がなければあり得なかったと思っています。

 M-1グランプリを立ち上げた、島田紳助さんがM-1に求めた漫才は「革新的な漫才」でした。西川きよし・横山やすしを代表とする「オーソドックスな漫才」ではなく、ざっくりと簡単に言えば、内容も間もスピードもどこか奇をてらったような分かりづらさもある漫才だったんです。だけども、中川家やますだおかだ、フットボールアワー、アンタッチャブルといった分かりやすい漫才の優勝が続いていました。

 その中で現れたのが第6回大会(2006年)のチュートリアル。自転車のチリンチリンを巡って、徳井義実くんが変質者ぎりぎりの危ないボケを繰り出すネタは鮮烈でした。審査員の満場一致を見て、M-1グランプリにとって悲願でもあった理想的なチャンピオンがチュートリアルだったんだと確信しましたね。

©M-1グランプリ優勝を機に知名度も全国区に ©時事通信社

 そして翌年のM-1グランプリ。「チュートリアル以上の革新的なネタ」が求められるのかな、と決勝に注目していました。でも蓋を開けたらチュートリアル以上の革新さは誰も持っていなかった。審査員も同じことを思ったんじゃないでしょうか。革新的漫才を得意とする笑い飯も5回目のファイナリストで期待されていたはずですが、思うような力を発揮できていませんでした。

 そんな状況で、最後の敗者復活枠に相当な期待がかけられていた。そこに出てきたのが見たこともないガラの悪い2人。革新的なネタではなかったけれど、見た目が個性的な2人が披露したオーソドックスな漫才コントは完璧で個性も突出している。そこに審査員は賭けて、背中を押したんだと思います。

 サンドウィッチマンの優勝は、チュートリアルの革新的な漫才からオーソドックスな漫才への揺り戻しだったんじゃないでしょうか。けど、今のサンドウィッチマンの活躍を見たら、審査員は全く間違っていなかったなと震えますね(決してネット動画で悪口なんか言えませんよ!)。