1997年6月21日に俳優の勝新太郎が65歳で死去してから、きょうで20年が経つ。これにあわせてか、1992年から94年にかけて『文藝春秋』で連載された対談をまとめた『泥水のみのみ浮き沈み 勝新太郎対談集』が、このたび文春文庫より復刊された。これがめっぽう面白い。あのビートたけしでさえ、勝の前ではたじたじだ。また、同じ俳優の三國連太郎との対談では、途中で三國と一緒にテレビの相撲中継を見始めたところ、いびきをかいて寝てしまう奔放さを見せる。

 この連載対談の始まる2年前の1990年、勝はマリファナとコカイン所持により滞在先のハワイで逮捕され(翌年には日本でも逮捕)、マスコミから激しく非難されていた。その約10年前の1981年には、映画製作のために設立した勝プロダクションが倒産し、多額の負債を抱えていたこともあり、後半生は多難であった。

6月21日、65歳で亡くなった勝新太郎 ©文藝春秋

 しかし、たとえ生活が苦しくなろうとも、勝はあくまで役者としての信念を貫く。対談相手のひとり映画評論家・白井佳夫からは「そんなこと全部犠牲にしてまで感覚に忠実に生きることは、ほんとに正しいことですか?」と訊かれ、「(決然と)これは正しい。そうでなくちゃいけない。いまさら勝プロのためにとか、[筆者注――妻の中村]玉緒のためにとか、子供たちのためにとか、それで折れるようだったら、葬式を出したほうがいいよ」と答えている。役者馬鹿とは彼のような役者をいうのだろう。

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 本書の巻末には妻・中村玉緒との対談が収録されている。普通の妻ならたまらず離婚を切り出すところだろうが、玉緒いわく「そんな離婚まで考える余裕がおますかいな」。一方では夫を持ち上げて「いま思うとパパさんはやっぱり大人だったというか、(中略)あたしがいくらわがまま言っても、ひどいこと言っても、やっぱりパパは大人なんですね」とも語っている。だが、これに勝が「だったら、あなたのご主人は、世間が言うほど悪くないじゃないの(笑)」と茶化すと、玉緒はこう返している。「どれがいいのか悪いのか、分からないんですよ、あたしには。一カ月ぐらいよそのいいとこの夫婦をいっぺん見学に行ってみなけりゃね」。まるで夫婦漫才だ。役者馬鹿には生きづらい世の中を迎えるなか、勝は妻に精神面で支えられるところも大きかったのではないか。