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「反米、政府の無能を浮き彫りにした」とブラックリスト入り

 問題視されたのは、『殺人の追憶』、『グエムル 漢江の怪物』(原題『怪物』、2006年)、『スノーピアサー』(原題『雪国列車』、2013年)の3作品。

『殺人の追憶』では、「公務員と警察を不正集団として描写し国民に誤ったイメージを与えた」とされた。米軍基地から流れた汚染水により漢江から怪物が現われ人間を攻撃するというストーリーでおよそ1300万人の観客を動員した『グエムル 漢江の怪物』は、「反米、政府の無能を浮き彫りにし、国民の意識を左傾化させた」とされ、列車の車両を階級になぞらえ描写した『スノーピアサー』は「市場経済を否定し、社会抵抗運動を扇動している」とされたという。

『グエムル-漢江の怪物-』DVDより

 当時、ブラックリストに挙がった対象者は支援を打ち切られたり、創作活動に支障がでるよう妨害措置がとられたといわれている。ポン・ジュノ監督は「ブラックリストにあがっていることは後で知りました」(JTBC、2019年5月28日)と言いながらも、「創作者にとっては消せない傷です。二度とこんなことがあってはいけない」(同)と話しており、ちょうどブラックリストに挙がっていた時期にあたる2013年に『パラサイト 半地下の家族』の構想を練っていたことも明かしている。

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半地下は本当に貧困層のもの? 国内の声

 様々な観点から注目を集める『パラサイト 半地下の家族』だが、韓国国内では他国で半地下を貧困層の象徴としていることに疑問の声もあがっている。

 半地下ができた説には諸説ある。1968年の北朝鮮が起こした青瓦台奇襲事件により、対北戦争に備え、防空壕として朴正煕元大統領時代に作られた空間だったというものや、高度成長期にソウルに人が集中し、住宅が不足してできた産物というものもあり、正確なところは分からない。

半地下の部屋で食事をするキム家夫婦。『パラサイト 半地下の家族』より © 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 半地下は安価な物件として今でも存在し、経済的困窮の象徴ではなく、若年層が一時的に夢を抱いて住む場所と捉える人もいる。また、再開発の進むソウルでは年々、減少傾向にある。

『パラサイト 半地下の家族』が世界で熱狂的に受け入れられた背景については、世界で格差社会が普遍的な問題として実感されているからという見方が大勢だ。

 映画では、半地下家族の父親がこんな台詞を言う。

「いちばん完璧な計画が何か知ってるか? それは無計画だよ」

 けれども、ポン・ジュノ監督はすでに次作についての計画があるそうだ。ひとつはロンドンで実際に起きた事件をモチーフにしたもので、もうひとつはソウルを舞台にした作品だと報じられている。