きょう7月23日は、今年1月21日に74歳で亡くなった俳優の松方弘樹の誕生日である。映画俳優・近衛十四郎の長男として生まれ(次男は同じく俳優の目黒祐樹)、17歳で『十七才の逆襲 暴力をぶっ潰せ』でデビューした松方は、時代劇や任侠映画を中心に活躍するとともに、後年はバラエティ番組にも出演して人気を集めた。
釣り師としても知られ、世界中の海を回るなか何度か遭難し、あるときなど3日間ほぼ飲まず食わずで漂流して生還するなどタフさを示した。しかしその松方も、病には勝てなかった。昨年2月に脳リンパ腫で入院、約1年間の闘病の末に亡くなった。
松方は70歳をすぎてから、「出前映画」と称して、地方の市民会館や公会堂を回って映画を上映する活動を行なっていた。いまや映画業界全体が縮小し、営業経費が高くて製作者にお金が回らず、公開されないままお蔵入りになる映画も増えている。出前映画を始めたのはまず何より、こうした状況を変えたいとの思いからだった。
松方を俳優として育てた時代劇も、現在ではすっかり少なくなってしまった。お金がないから、撮影にも時間をかけられず、俳優がNGさえ出さなければOKとなる。そんな状況を、これではよい役者も育たないし、監督も演出ができなくなると嘆いた。「あらゆる専門職が希薄になって現場が気の毒です。だからこそ出前映画を軌道に乗せたいんですよ」(『週刊文春』2015年12月24日号)。そう熱っぽく語った同時期には、ラジオの特番や自伝のためロングインタビューに応じ、将来に向けて日本映画や時代劇の継承を訴えていた。はからずも“遺言”となってしまったこれらインタビューは、没後、『不屈 松方弘樹 時代劇への遺言』(春日太一著、文春e-Books)、『無冠の男 松方弘樹伝』(伊藤彰彦との共著、講談社)としてまとめられている。