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小島秀夫が観た『ワンダーウーマン』

ワンダーなウーマンからワンダフルなヒューマンへ

2017/08/20

genre : エンタメ, 映画

note

暴力ではなく、防御する力を見せた「バイオニック・ジェミー」

 1975年、リンダ・カーターを主演に迎えた『ワンダーウーマン』のテレビシリーズの放映が始まった。その翌年、1976年に『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』がスタートする。リンゼイ・ワグナーが演じたジェミー・ソマーズは、事故により瀕死の重傷を負うが、身体をサイボーグ化されて蘇った「地上最強の美女」だ。元テニスプレイヤーのジェミーは、バイオニック能力を活かしてアメリカ政府機関(科学情報局)のエージェントになるのだが、その能力は破壊や殺人のような暴力に使われることはない。エージェントである以上、国家の利益に奉仕しなければならないのだが、その利益を損なう敵を倒すことに能力は用いられない。パンチやキックなどは一切使わない。力は攻撃ではなく防御に使われる。超人的な能力は、敵地に潜入するためか、逃走するためのものなのだ。能力の行使は目的ではなく、あくまで手段。敵を破壊するのではなく、話をすることで事件や任務を解決に導こうとする。ジェミーの力の使い方は、彼女の思想であり生き方の表現だった。悪人も善人も、人種も老若男女も関係なく、彼女の姿勢に触れた人々は、彼女のことが好きになり、己の生き方を変えていく。ジェミーが潤滑油となって対立の壁を溶かし、人々をつないで世界を救うのだ。しなやかでたおやかで、優しい姿をしていながら、揺るがない芯の強さをもっている存在、それがジェミーだった。

「600万ドルの男」に「ゲスト出演」した、リンゼイ・ワグナー演じるジェミー ©getty

 放送当時、ローティーンだった私は、その魅力の虜になってしまった。私だけではない、世界中の人がジェミーの虜になった。元は『600万ドルの男』のゲストとして登場し、スピンアウトして単独のシリーズに昇格したこと、シリーズも第3シーズンまで製作されたことが、その事実を客観的に証明している。この作品で描かれたジェミーの姿こそが、理想的なヒーロー=ヒロインの姿だ。男女の差も、人種の差もなく誰もが共感するヒーロー=ヒロイン。少なくとも私にとってはジェミーこそが理想の一つの形だ。

 彼女こそが、世界を救うワンダフル・ウーマンだ。

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「男並み」に力を振るうのでもなく、「女だけの」母性で世界を包むのでもない方法で世界を救う。私たちはすでにバイオニック・ジェミーという理想的なヒーロー=ヒロインに出会っている。

ヒューマンは「正義の同盟」を実現できるか

「女性が世界を救う」ことがワンダーだということは、本作の大ヒットが証明した。次の段階では、男女の垣根を乗り越えて、「正義」とは何か、そのために戦う理由は何か、ということを私たちは自らに問いかけなければならない。冷戦の時代がとうに終わり、非対称な戦闘の時代に突入した現代において、救うべき世界とは何か。それを実現するための「正義(ジャスティス)」とは何か、力とは何か。それが、男女や人種、宗教、社会の壁を超えて問われなければならない問題なのだ。ワンダーな女性(ウーマン)の誕生を目撃した私たちは、ワンダフルな人間(ヒューマン)が背負うべき正義という難問に立ち向かう。

 プリンセス・ダイアナというヒューマンが「正義の同盟(ジャスティス・リーグ)」をいかに導いていくのか、その姿こそを観てみたい。

 2017年11月に公開される『ジャスティス・リーグ』では、バットマン、アクアマン、フラッシュ、サイボーグらDCのヒーローとともに、ワンダーウーマンも登場する。「女性が世界を救う」映画から「チームが世界を救う」映画へと舞台を移した彼女は、どんな正義を見せてくれるのだろうか。

INFORMATION
©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ワンダーウーマン

8月25日(金)全国ロードショー  3D/2D/IMAX

ワーナー・ブラザース映画
wwws.warnerbros.co.jp/wonderwoman/

小島秀夫が観た『ワンダーウーマン』

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