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海老澤 他の業態と明らかに違うのはファッションは「ブランド価値」が人気や売り上げに非常に大きく影響している点でしょう。ストライプインターナショナルであれば「アースミュージック&エコロジー」という主力ブランドは宮崎あおいさんや広瀬すずさんをブランドの顔としてCMに起用し「もう無駄なものは着ない(=サステナビリティ)」というイメージを強く押し出してきました。

 今の10代、20代は、ファストファッションを経た後のサステナビリティやフェミニズムといったテーマに興味がある意識の高い世代。「アースミュージック&エコロジー」はその子たちがメインターゲットになっていて、たとえば就活サイト「マイナビ」の大学生ファッションブランドランキング(19年)でも4位と高い人気を誇っていました。

 今回、セクハラ問題が明るみに出たことで、皮肉にも、サステナブルを前面に押し出してきた企業が、その内情はセクハラが横行する、サステナブルとはかけ離れた労働環境であることが明るみに出てしまった。同社のサステナブルなイメージが崩れ、意識の高い若い世代が一気に離れてしまいました。実際にこの一件を受けて、Twitterの一部では不買運動も起きました。ストライプインターナショナルのほかの社員の方はものすごくがんばっていらっしゃるはずなので、そういう意味でも石川さんの件は非常に残念ですよね。

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 石川さんもそうですが、このご時世、セクハラがダメだということを知らない経営者はもういないはずなんです。なのにやってしまうのは、「自分は大丈夫」「相手は嫌がっていない」など認識が甘く、危機意識に乏しいからではないでしょうか。そうだとすれば、こうした経営者に単に「セクハラはダメ」と伝えるだけでは響かない。個人的な欲望によって取り返しがつかないほどの莫大な「ブランド価値」を失うということをより強調して啓蒙していく必要があるのではないかと考えています。

――ストライプインターナショナルでは社内の査問会で「セクハラの事実は認められず、処分はありませんでした」という結論になっています。朝日新聞の取材にも同社は「上司と部下として誤解を招く表現があった」「食事やホテルに誘ったことは認める」としています。

海老澤 そういう意味でも会社全体の認識の甘さが出ているのではないでしょうか。

 先ほども言った通り、セクハラに当たるかどうかは「主観」により判断される部分が大きいですし、密室で行われることが多いため、被害を受けた本人が「嫌だ」と思って訴えることがなければ問題が明るみに出ないことがほとんどです。また、セクハラを含む性被害の被害者は、ショックや自責の念から被害を申告できないケースがとても多い。査問会で事実は認められないとの結論になったのは、そうした背景があったのかもしれません。

 #MeToo運動が最初に盛り上がったのは2017年でした。そのとき私は、この運動をきっかけに、アパレルでも襟を正す企業が増えることで、業界が大きく変わるきっかけになるのではと期待しました。水原希子さんなど勇気ある女性が声を挙げてくれましたが、この声に応えた企業は一部の外資系企業のみ。日本のアパレル業界全体には広がらず非常に残念に感じていました。

 それが、今年になって、2018年にストライプインターナショナルでこの査問会が開かれていたことが分かり、大々的に報道されたことで注目が集まったわけです。これを契機にこれまで表に出ることのなかったケースにも光が当たり、「ファッション業界の膿を出す」流れになっていけばいいなと思っています。