今回は、「口腔内の健康維持」が「全身の健康維持」につながり、「健康長寿」にも関与する――というお話。

 新型コロナウイルスの感染拡大による「緊急事態宣言」を受けて、日常生活での制限が強化された。色々な面での不自由さを感じるのはもちろんだが、外出自粛による運動不足は、体力の向上や維持を考える上で大きな障壁となる。特に中高年層の場合、日常的に体を動かす機会が減ると、骨や筋肉への刺激が減り、運動器の機能低下を招くことにもなりかねない。

©iStock.com

高齢者に起き得る身体機能の低下を指す、3つの用語

 高齢者に起き得る身体機能の低下を指す用語に、「ロコモティブシンドローム」「サルコペニア」「フレイル」などがある。近年耳にする機会が増えたが、よく似た内容な上に、例によってカタカナ言葉なので、正しく理解して使い分けている人は少ない。そこで一応簡単に解説しておく。

ADVERTISEMENT

■ロコモティブシンドローム
 骨折や変形性膝関節症、腰部脊柱管狭窄症などの運動器の障害が原因で、「立つ」「歩く」などの動きが困難になり、移動がしづらくなる状態。

■サルコペニア
 筋力・筋肉量が減少した状態。骨格筋量は男性で7.0㎏/㎡未満、女性で5.7㎏/㎡未満、歩行速度が1.0m/秒未満、握力が男性で28㎏未満、女性で18㎏未満。

■フレイル
 加齢により身体機能が低下し、放置すれば要介護に進展するリスクが高い「虚弱」の状態。ただし、的確な医療介入で改善が見込める。体重減少、疲労感、日常生活で体を動かす機会が減った、歩く速度が遅くなる、握力の低下なども見られる。

 ただ、これらはあくまで医学上の分類に過ぎない。そもそもこの3つは部分的に重なり合っていて、キレイに分離することもできない。私たちにできる対策といえば、「バランスのいい食事と適度な運動、そして“社会活動に参加すること”」という、この手の記事で何万回も繰り返し言われ続けてきた、漠然としたことになってしまう。

 ところが近年、もう少し具体的な対策が、歯科領域から発信されるようになってきた。

「オーラルフレイル」という概念がそれだ。

フレイルやサルコペニアに至る前の“注意信号”

矢島安朝歯科医師

「加齢に伴い心身の機能は徐々に低下し、フレイルに傾きながら自立度低下を経て認知症や要介護状態に陥っていきます。こうならないためには、その前段階で気付き、効果のある対策を練る必要がある。その“前段階”の一つがオーラルフレイルなのです」

 と語るのは、東京歯科大学大学院歯学研究科長の矢島安朝教授。

 オーラルフレイルは身体的なフレイルの一部分を占めるものだが、フレイルとしてはまだ深刻な状態ではない。フレイルやサルコペニアに至る前の“注意信号”なのだ。