文春オンライン

今後、死者数は急速に増えていく。“崩壊前夜”の日本の医療では感染爆発に耐えられない

WHO上級顧問・渋谷健司氏緊急提言「いまこそ日本全国ロックダウンを」

2020/04/17

日本の死亡者が極めて少ない本当の理由は……

 新型コロナウイルスの感染爆発に晒された国々の医療は、まさに「戦時下の医療」に変貌する。次から次へと運び込まれる患者。軽症例を診る余裕はない。集中治療室は重症の呼吸不全患者で満杯で、中等症の通常の肺炎患者は一般病棟での酸素吸入。救急車のたらい回しは当たり前になり、コロナ以外の疾病による犠牲者も増えていく。人工呼吸器が限られるために命の選択をしなければならない。防護服も足りない。医師や看護師も感染して戦線を離脱していく。ベッドも一杯だ。廊下に患者を寝せなければならない。こういった、TVや映画で見られるような非常事態が東京でも起こる可能性がある。

 戦時下の医療の最も大切な目的は「できるかぎり死者を出さない」、つまり、「命を守る」ことだ。そのために必要なのは、集中治療のベッド数とそれを支えるスタッフと機材だ。人手を要するECMO(エクモ、人工肺)などの最高度の治療を行う余裕はなくなり、人工呼吸器がいくつあるか、そしてそれを使える医師や看護師などの医療スタッフがどれだけいるかで救える命の数が決まる。

エクモ ©iStock.com

 コロナの死亡者が極めて少ないのは、日本の医療の質の高さを示しているとまことしやかに言われることが多いが、検査が少ないために診断されていない肺炎が多い可能性はある。また、感染爆発の初期であったために、死亡者が少なく見えるだけの可能性もある。日本の集中治療は非常にキャパに乏しく、今後、死者数は急速に増えていくであろう。

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「人を死なせない」“戦時下の医療体制”を

 日本は人口当たりの病床数は世界一多いが、その多くは高齢者や精神疾患対応だ。集中治療用のベッドは先進国でも最低レベルの人口10万人当たり約5床だ。集中治療が進む米国は約35床、ドイツは約30床もある。犠牲者が多数出たイタリア(約12床)、スペイン(約10床)も日本よりはるかに多い。最も充実している東京でもNYの3000床に対して1400床と極めて脆弱だ。NYでは人工呼吸器は2万2000~3万台必要になると試算されていたが、東京の人工呼吸器数は3600台 (うち半分はすでに稼働中) しかない。

集中治療室 ©iStock.com

 さらに、ベッドや機材があってもそれを管理する人がいなければそれらは全く役に立たない。日本では、そもそも集中治療専門医が少ない。欧米では集中治療専門医が司令塔になり、様々な医療従事者と連携をして命を救っている。しかし、日本では常駐の専門医師がいない、形だけの集中治療室も多く、他部署や救急部門と兼務で成り立っている集中治療が殆どなのだ。集中治療を専門・専業にするチームで24時間365日運用されている集中治療は都内でもベッド数が非常に少ないのが実態だ。そして、数少ない優れた水準の集中治療も、平時から極めて限られたリソースとスタッフで支えられているところが殆どである。これで感染爆発に対応できるか疑問だ。