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「争う余地はある」が、金と時間がかかる

 これに対し、サイトを運営する会社の顧問弁護士から届いた書簡はこうだ。

《本件レビューは、本件書籍についてXXXX氏(ハンドルネーム)が「無理やり不幸に当てはめたような書き方」との感想を持った旨、そのためXXXX氏は、同書籍がノンフィクション作品であることを前提に、あたかも「できすぎたフィクション小説」のようだと感じた旨、及び「文章の書き方に一貫性もない」と感じた旨を述べるものと解されます。(中略)したがって、貴書簡のご請求に応じることはできません》

サイト運営者代理人弁護士からの回答書 ©諸岡宏樹

 弁護士は「争う余地はある」としながらも、ここからは金と時間がかかると説明する。

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「まず、発信者情報開示請求の仮処分をサイト運営会社に対して行う必要があります。この仮処分が認められると、書き込みのIPアドレスからメールアドレスが特定できます。これが着手金20万円+成功報酬20万円です。次にドメインから特定したプロバイダに対して、契約者の名前を開示させるのに着手金20万円+成功報酬20万円、合計80万円かかります。それから訴訟ということになりますが、仮処分が出るだけでも半年かかります」

 これだけの手間がかかっても、「取れるのは100万円ぐらい」が限度らしい。

加害者たちは過度なまでに「表現の自由」に守られている

 果たして、一般庶民に起こせるような訴訟だろうか。どう考えても、加害者特定までの仮処分の費用が邪魔である。それを乗り越えられるのはよほどの金持ちしかいない。この仕組みでは時間、費用、労力がかかりすぎて、多くの被害者が泣き寝入りしてしまう。

 一方、加害者たちは安全圏にいて、過度なまでに「表現の自由」に守られている。その間、書き込まれた中傷はインターネット上に漂流したままである。

©iStock.com

 高市早苗総務相はインターネット上の書き込みをした投稿者の特定を容易にし、悪意ある投稿を抑止するための制度改正を検討するとしている。

 発信者の開示手続きを容易にすれば、単なる批評までが非難されてしまうという意見もあるが、これはあくまでも匿名の書き込みが実名化されるだけの手続きにすぎない。名誉毀損などを争う上での前段となるプロセスだ。自分の意見があるなら、実名で堂々とやればいいのであって、こそこそやる必要はない。サイト運営者も含めて、投稿者の責任がきっちりと問われる仕組みづくりが必要だろう。