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日本の結核発症率はアメリカの4倍 なぜ先進国の中でも罹患率が高いのか

『世界を変えた微生物と感染症』より #2

2020/09/07
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 いずれの作品も連れ合いを結核で亡くすという部分は同じですが、堀の『風立ちぬ』の中の「風立ちぬ、いざ生きめやも」には、生きる意志があってもそれが果たせるかわからない不安感があります。それに対して、宮崎監督の『風立ちぬ』のキャッチコピー「生きねば。」には、その漠然とした不安はありません。現代は治療法が確立しているので、かつての不安がキャッチフレーズから消えています。

BCG接種

 現在でも結核の予防として行われている「BCG接種」ですが、予防接種に用いられているワクチンは牛に感染する牛型結核菌を培養したものです。天然痘の種痘が牛痘(実際には牛に感染した馬痘)を利用したことによく似ています。

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 長年、乳児から小中学生にツベルクリン反応検査とBCG接種が行なわれていたので覚えている人も多いと思いますが、ツベルクリン反応検査は2005年に廃止されました。現在では生後1歳までの乳幼児にのみ定期接種としてBCG接種を行っています。

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日本の結核発症率は米国の4倍

 BCG接種は結核の発病を抑えるほか、小児に起きやすい結核性髄膜炎や粟粒結核などの重症化を抑えるはたらきがあると言われています。日本の結核発症率はアメリカの4倍程度もあるにもかかわらず、小児ではアメリカの発症率を下回っているのはBCG接種のおかげだと考えられています。

 なお、BCG接種が免疫を強化し、新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐ、という説が一時期取りざたされましたが、これは今後検証が必要な仮説です。