新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちは日常生活においてこれまで以上に衛生面に気を配る機会が増えた。人の集まる屋内でマスクをつけることはもちろん、今ではどこの店先にもアルコール消毒液が設置されている。

 さまざまな衛生グッズが取り扱われているが、その売り文句にもされている「除菌」「殺菌」「抗菌」といった言葉には、実は明確なすみわけがある。大人や子どもが楽しみながら理科に興味を持てる著書を多数著している左巻健男氏が編著を努めた書籍、『世界を変えた微生物と感染症』(祥伝社)から、一部を抜粋する。

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どこまで死滅させられるのか

 微生物による感染予防での滅菌、殺菌、除菌、抗菌という「○菌」にはどんな違いがあるでしょうか。

 この中で、最も定義がはっきりしているのは滅菌です。

 滅菌は、微生物を完全に死滅させることです。病原体ではない微生物も含めて、全部死滅させることになります。もちろん、私たちのまわりにいる微生物をすべてなくすことは不可能ですし、そんなことをしたら逆にマイナスのほうが大きいです。手指や手術器具など対象の範囲を限定して行ないます。

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 対象を滅菌したら、そこには生きた微生物がいなくなります。ウイルスも失活します。微生物で最も死滅させにくいのが細菌の芽胞です。ですから、一般に、滅菌は細菌の芽胞も死滅させる方法になります。

 滅菌と関係して消毒という方法があります。消毒は滅菌よりゆるやかで、芽胞が死なない場合がありますが、ふつうの細菌などは死滅する方法です。

滅菌、消毒の方法

 滅菌でよく使われるのが熱による方法です。オートクレーブという2気圧のときでほぼ121℃という高圧高温の水蒸気で滅菌する装置がよく使われます。

 料理に使うオーブンと同じしくみの150~180℃の乾燥空気を送り込む滅菌器も使われます。160℃で2時間、180℃で30分間程度が必要です。 滅菌時間は10~20分間です。微生物の研究、医療の現場などでガラス器具、細菌の培地、ガーゼ、包帯、金属製のはさみやメスなどを滅菌するのに使います。

 ほかに、ガスを使う方法、放射線(ガンマー線)や紫外線を使う方法があります。

 消毒には、沸騰した水で菌を死滅させる煮沸消毒や、さまざまな殺菌消毒薬を使う方法があります。