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増田康宏六段が角落ち対局で「今回は本気でやりました」

――女流アマ名人戦では史上初の3連覇という素晴らしい結果を残しています。特に力を入れていたのですか。

野原 最初に優勝した中2のときは特別な回で、ベスト4まで東京で決め、その続きは後日(日本将棋連盟の旅費負担で)天童市の滝の湯ホテルで行うことになっていました。中1のベスト8を超えてベスト4に残り、中学選抜でも行った天童に行けることになり、嬉しかったです。強敵だと思っていた真帆ちゃん(礒谷女流初段)、小野ゆかりさんに宮澤紗希ちゃん(2人とも女流プロ資格を満たしたこともあるアマ強豪)はベスト4の前で負けていて「チャンスじゃね」とポジティブに考えました。天童では2回勝てば良く、優勝することができました。

――優勝すると、女流王将戦や倉敷藤花戦のアマ枠に選ばれる可能性が高くなる、男性アマ強豪が集まる全国大会、赤旗名人戦や朝日アマ名人戦に女性代表として出られるなど特典がたくさんあるのですよね。

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野原 そうなんです。「こんなに特典があるなら、来年も頑張ろう」と思いました。中3のときは、中学生名人戦と中学選抜の優勝の後で、女流アマ名人戦も本命視されました。前のような気楽な立場ではなくなり、やりにくかったです。対策も立てられた中で優勝することができました。高1のときは、夏の高校生大会で入賞すらできず、「女流アマ名人戦だけは結果を残したい」と思って臨みました。予定されていた日に台風が来て、1日順延になって大変でしたけれど、思い入れのある大会で3連覇できて嬉しかったです。

――女流アマ名人戦優勝により、しんぶん赤旗の企画で時の新人王と対局しています。中2のとき増田康宏六段、中3のときが藤井聡太二冠ですね。そのときのことを教えて下さい。

野原 両方とも角落ちでした。増田先生は2年連続新人王で、前年は真帆ちゃんと対戦し、真帆ちゃん勝ちと聞いていました。下手が勝つことは滅多にないそうで、増田先生は連敗するわけにいかないと思われたみたいです。ボロ負けしてしまい「今回は本気でやりました」と言われました(笑)。指導対局とは違う1対1の真剣な対局で「プロの本気ってすごい」と強さを体感できたのは、とても貴重な経験だったと思います。

藤井二冠はテレビで見たまんまで謙虚

――藤井二冠とは?

野原 有名人なので緊張しました(笑)。その対局も完敗でした。でも、私の良かった手を褒めてくれ嬉しかったです。対局を丁寧に振り返って「この局面ではこうしたほうが良かった」と優しく教えてくれ、質問にも答えてくれました。時間を余らせて負けてしまったので「時間配分を工夫したらもっと強くなりますよ」とアドバイスをいただきました。それから時間配分に気を付けるようになりました。

 それまで私は序中盤で悪くしてから終盤でひっくり返すような将棋を指していました。それでは本当に強い相手には通じません。アドバイスを生かし、序中盤でも時間を使い自分が良くなるようにしっかり考えるようになりました。

 

――そんな藤井二冠は1歳年上。同世代と言われることもありますが、どう思いますか。

野原 実際にお話しした藤井二冠は本当に謙虚で、テレビで見たまんまでした。すごく落ち着いていて、とても1歳上とは思えませんでした。和田はなちゃん(女流2級。藤井二冠の1歳年上)とも話したのですが、あまり藤井二冠と同世代とは思ったことはなくて、近いのは年齢だけで、見習うべき相手というか……。

――藤井二冠の活躍を見て思うことはありますか。

野原 あれだけ年上の棋士に勝ちまくっているのはすごいなと思いますし、将棋は年齢が関係ないのが魅力だと思います。藤井二冠は将棋を楽しんでいるのも伝わってきて、そこも素晴らしいです。

写真=松本輝一/文藝春秋

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