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中学生名人戦優勝 期待のルーキー・野原未蘭を成長させた藤井聡太のアドバイスとは

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野原未蘭女流2級インタビュー #1

2020/09/25
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実は英春流を学べる教室というのを理解していませんでした

――晩成塾は、英春流で知られる将棋教室ですね。富山ではなく石川県の金沢市にあって遠くなかったでしょうか。未蘭先生自身も英春先生のことはご存じでしたか。

野原 車で1時間から1時間半でした。父か母が毎週送ってくれました。1日がかりというか、私が教室にいる間、父や母は金沢のどこかで時間をつぶしていたようです。今思うと、遠くまで送迎してくれて感謝しています。英春先生は石川県の方ですが、私は頻繁に石川県の大会にも出ていましたので、石川県の強い人がたくさん通っているという評判は聞いていました。

 英春流とは元奨励会三段のアマ強豪、鈴木英春さん(70)が考案した戦法の総称。2019年にはマイナビ出版から『英春流 かまいたち&カメレオン戦法』(鈴木英春)が出版された。相手を惑わせる個性的な序盤で、気づかれないうちに相手を切るという「かまいたち」と、変幻自在の「カメレオン」の2つの戦法からなる。初手から、先手なら9六歩、後手なら6二銀とあまりない手を指す。ユニークなネーミングも鈴木英春さん自身によるものだ。

 

――英春流は独特の感覚があり、覚えるのは大変ではなかったでしょうか。

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野原 父は私に英春流を身に付けさせようと教室に入れたようですが、私は単に強くなれそうだから入った感じで、実は英春流を学べる教室というのを理解していませんでした。入ってすぐに英春先生と対局し、私は当時得意だった角交換四間飛車をしようとしたら、角道を開けずに交換させてもらえません。そのうちに一方的に切られていて「あれ、なんだこの戦法?」と思ったら「これが英春流なんだよ」と言われました(笑)。晩成塾には、英春流の優秀な使い手がたくさんいて、皆さん大会で活躍していたので、私も強くなるには英春流をやったほうがいいと思いました。とはいえ、それまで攻め将棋だったのに、英春流は受け身で、受けが強くないと指しこなせない戦法です。最初は、それまで勝てた人にも勝てなくなったりしました。

 人によって合う、合わないがあると思います。私の場合はやっていくうちに慣れてきて勝てるようになっていきました。柔軟に対応する能力は平均よりあるのかなと思っています。

「楽しくなければ将棋じゃない」が教えでした

――晩成塾は英春先生自ら大盤を使って「英春流とはこう指す」と説明していくような教室ではないのですか。

 

野原 全然違います(笑)。大盤解説はなくて、基本的にたくさん指して「体で覚えろ」という感じ。生徒同士も仲がよく、上が下に教えることがしっかりした教室でした。大学や高校の全国大会で上位に入る自分より強い人とたくさん指し、英春流で分からないことがあれば、親切に教えてもらうことができました。誰か大会で優勝すると報告して、みんなで拍手。人が努力したことを認め、他人の結果も喜ぶことを大切にしていました。勝つことだけを考えて手が伸びない将棋ではなく「楽しくなければ将棋じゃない」が教えでした。

――テレビで英春先生が野原家に出向いて家庭教師のように教えているシーンを見ました。ご自宅で教わることもあったのですか。

野原 英春先生から認められ、プロになりたい一部の生徒に英春先生が出向いて教える「直伝」という制度があって、私も小5の頃から教わりました。直伝だけで300局以上教えてもらいました。田中沙紀さん(元女流3級)も直伝で指導を受けた1人です。