コロナが観光と地域を結びなおす
これまで観光業が地域社会では少し「浮いた」存在であったのは、それは観光業が地元住民との関わりが少ない業種であったからでもある。誰でも自分の街に行きつけの居酒屋やいつも買いものに行くスーパーなど、愛着と思い出のある店がある。しかし、自分の街に定宿がある人は多くはないだろう。
たとえば、あなたの家の近所の馴染みのレストランが取り壊されたとしよう。「残念だけど仕方ないか……」。あなたはそう思いながら、毎日、工事現場の前を通りかかる。そして「今度はどんなお店ができるのだろう。またレストランだろうか。今度はイタリアンだったらいいな。ここだったら仕事帰りに立ち寄りやすいし」。そんなふうに少し楽しみにしている。
しかし、ある日、あなたはその敷地には今度はホテルが建つことを知る。その工事が完了しても、あなたがその建物に立ち寄ることはもうないだろう。
つまり観光客のための施設とは基本的には地元住民にとって立ち入ることがあまりない場所だ。だから京都の「お宿バブル」のように、街中にホテルがみるみる乱立していくという状況は、住民にとっては、ひとつ、またひとつと自分たちの立ち入らない場所が増えていくということでもある。そして「このままでは観光によって街から閉め出されてしまう……!」という危機感を抱く。
観光と地元住民が往々にして対立的な関係に陥ってしまう要因のひとつはこの構造によるものである。
だからこそ、緊急事態宣言が明けたばかりの2020年6月に京都にオープンしたエースホテル京都が、映画館や商業施設など、あえて観光客だけでなく地元住民にとっても愛着や思い出を育むことのできる施設を併設したのは、この場所を観光客だけのための場所にしないという実験的なコンセプトによるものである。
また京都市は、災害時の避難所における新型コロナウイルス感染症対策のひとつとして、ホテルの空き部屋を短期間の避難場所として活用する仕組みの構築について市内12か所のホテルとの合意を得た。