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デビュー20周年 ソニンの“有能すぎるドMっぷり”と“滲み出る孤独感”の正体

2020/11/08
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 2017年3月に「しくじり先生 俺みたいになるな!!」にソニンが出演した際、当時の自分を「指示待ち人間」と振り返っている。自分は歌もダンスも中途半端だったから、とにかく事務所から出された指示は全てやりきろうと決意して、それがああいう展開になっていったそうだ。やり切るにもほどがあるよ、ソニン!

『カレーライスの女』とは何だったのか?

 彼女の自信のなさから生まれるストイックさ。それが見事に歌の世界観に活かされたのがソニン名義ではファーストシングルとなる『カレーライスの女』だ。

ソニン『カレーライスの女』

 上京した女の子が恋をし、彼の大好きなカレーライスを覚える。でも、その彼にふられて、カレーのほかは残らない。気がつけば友だちもそんなにいない。電話一本もかかってこない……。邪魔なものが一切ない「なんにもない」清々しさではない、投げやりな「なんもない」から見える、「私今まで何やってたんだろう」という虚しさ。手に入りそうだったものが零れ落ちていく脱力感。

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 しかも、カレーライスは人によって入れる食材も味付けも変わってくる。女の子が覚えたそのレシピは、次の男ができたら、味付けを変えなければならない。つらい!

煮込み料理は失恋フラグ……?

 あくまでも歌の世界の話ではあるが、煮込み料理は失恋フラグな気がする。斉藤由貴の『土曜日のタマネギ』(1986年)でも、土曜の夜はりきってポトフを作っているのに結局彼は来ず、ヒロインはしばらく鍋に火をつけっぱなしにしてボー然としてしまう。松任谷由実の『CHINESE SOUP』(1975年)も、別れた男の思い出よ溶けてしまえとばかりに野菜を煮込むのだ。怖い。

 逆に、簡単な料理はハッピーだ。DREAMS COME TRUEの『あなたにサラダ』(1991年)は特製ではあるが、基本野菜を切って調味料をぶっかけるだけ。それでも歌詞から溢れ出るのはラブラブな予感。大塚愛の『黒毛和牛上塩タン焼680円』(2005年)なんて、外食である。

ライブ後に握手会を行うソニン(2002年)

 歌の世界観としては「肉=ヒロイン」なのだが、リアルなデートの食事風景に置き替えても、この歌の主導権を握るのは完全にヒロイン。エロスを前面に出すほうが、恋の駆け引きのスタートダッシュはうまくいくようだ。

 カレーライスの女よ、家庭的な料理は極めるほど重いのかもしれないぞ。焼肉店でキャッキャしているほうが長く続いたんじゃないか……。食の歌詞から見える恋愛模様は、いろんな妄想を膨らませる。

 また、『カレーライスの女』を聴いて思い出すのは、同じくつんく♂が手掛けた、シャ乱Qの楽曲である。