「誰よりつらい状況になることを、自ら望むのが俳優である」 55歳になった香川照之“俳優の原点”
12月7日は香川照之55歳の誕生日
「自分が誰よりつらい状況になることを望む」
戦時中の日本兵捕虜を演じた同作では、これまでの自分のやり方をすべて否定され、強制的に自分を変えさせられ、大きな衝撃を受けたという。そのなかで香川は《「映画とは何か」「俳優は何をすべきか」について、身をもって徹底的に教えられ》、次のような結論にいたる(※3)。
《俳優とは、誰よりも率先して辛いことをやり、その姿を見せることでみんなに笑ってもらったり泣いてもらったりするのが仕事であり、それは「芝居をする」ということとはまったく違う。本当に必要なのか、痛いのか、損にはならないのか、もしかしたら二度手間ではないか……、そんなことは、一切考えてはいけない。自分が誰よりつらい状況になることを、自ら望むのが俳優である》
以来、彼は、映画『剱岳 点の記』(2009年)では実際に真冬の山に登り、日々天候に左右されながらの撮影に耐えたり(監督の木村大作からは撮影中、「これは映画ではない。行です」と言われたという)、ドラマ『坂の上の雲』(2009~11年)では死ぬ間際の正岡子規を演じるために、17キロの減量に挑んだりと、自ら進んでつらさを求めてきた。
そんな香川の演技に対する姿勢はやはり、役づくりとは似て非なるものだろう。それは次の発言からもうかがえる。
《僕にとっていい役者というのは、「今、命を捨てる覚悟がある」という言葉がわかるかどうかです。役のために魂を売るということではなく、その一瞬一瞬に真剣になれるかどうか。これは役者というより人間としての問題かもしれませんが、なぜここに立っているのか、なぜ役者をやっているのか、そういういろんな問いにちゃんと真剣な答えがあり、そこからリアルな感情がボンッと出てくるような人が、いい俳優であり、いい人間であるような気がします》(※4)
『半沢直樹』で大和田が見せた涙も、その場面に真剣に向き合った末の、リアルな感情の発露であったに違いない。