あの男性キャラのモデルは……
――男性も数多く登場していました。中でも恋愛関係になったら面倒そうなキャラクターはいましたか?
山田 面倒じゃない男性と付き合ってもつまらないと思います。
――(笑)
山田 最初は必ず、どの男性も面倒ではないんだけど、だんだん付き合っていくうちに面倒になってきてしまう。でも、「面倒」程度だったらいいんじゃない? もっとひどいことになる場合もあるから。
内田 「ブーランジェリー」に登場する「陰のパン屋さん」がいますよね。彼の顔は伊勢谷友介被告をモデルにしました。ちょうどニュースで話題になっていて、自分の中のイメージが固まって。あとは、ガス抜きのシーンですね。あのテンポのよさは手塚治虫先生の漫画が浮かびました。
山田 オマージュだったんだ。あの場面、いいよね。「宿り木」のラストシーンの「ギャー」っていうのは、楳図かずお先生だよね。
内田 そうです。最初から楳図さんの絵が頭に浮かんで、かなり気合いを入れて描きました。「宿り木」の前編は「文春オンライン」ですごく読まれたみたいです。前編のタイトルの「元彼の結婚式に招待された。当日、私が選んだ服は……」がとても良くて。
山田 その結婚式のエピソードは、もう何十年も前に、私が実際に見たことがある場面が元になっているんですよ。山の上のホテルに行った時にちょうど結婚式を終えて出て来た花嫁の近くの友人たちのなかに、白いドレスを着た子がいるのを見つけて。横にいた編集者に「見てよ、あれ駄目だよ」って私が言ったんです。そのときのことを、書いている時に思い出したの。普段の生活のなかで無駄なことってないんだな、と思うのはこういう時で、小説を書いていて、昔のエピソードがパッパと出てくる時がある。
キュートでセクシーでありながら、底知れない怖さがある
――最後に、『タイニーストーリーズ』の漫画をこれから読むという方にメッセージをお願いします。
山田 原作をはみ出した内田さんの漫画の魅力を味わってもらえたら。私がボールを静かに置いたとしたら、内田さんが弾ませてくれた、みたいな躍動感があるので。それに、内田さんの絵はキュートでセクシーでありながら、作品世界の人々には底知れないおっかないところがあるじゃないですか。
内田 ああ、嬉しいなー。ありがとうございます。コミカライズは本当に久しぶりで、漫画にする技術を新たに得られた気がします。若い世代から私たちの世代、さらに上の世代まで、生きるヒントがたくさん詰まっています。知人が「百年生になったら」の漫画を読んで感想のメールをくれたんですけど、共感の嵐でした(笑)。私が描いた話だと思っていたから、「あれはコミカライズだよ」って返したんです。原作の小説も多くの方に読んでいただきたいです。
※この記事は1月22日発売「オール讀物」2月号の対談企画を再構成したものです。