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選手からお金をもらうのは辛い

 独立リーグでは現状、選手がNPB球団と入団合意した場合、契約金と初年度年俸を合計した額の20%が選手から所属球団とリーグに払われる。2020年に徳島インディゴソックスから広島に5位指名された行木俊を例にとると、契約金2000万円、年俸550万円(推定)で、そこから510万円が徳島とリーグにわたる計算だ。

 ただし2020年にNPBから指名されたのは支配下登録が2人、育成契約が6人だったように、多くの独立リーガーは育成契約だ。彼らは支度金300万円、年俸240万円くらいの条件で、その場合に独立リーグ球団が手にするのは108万円。BCリーグの村山代表は率直に吐露した。

「選手からお金をもらうのは、こちらも辛い思いをしています。ここは本来、NPBとやりとりしなければいけないという課題を持っています」

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 NPB経験者や外国人選手がNPBや外国のプロ球団と契約した場合、移籍金が発生する。彼らは「プロ」と見なされているからだ。

 対してNPB未経験の独立リーガーは、高校生や大学生、社会人と同じくドラフトにかからなければNPB球団に入れず、いわば「アマ」という位置づけだ。お金をもらってプレーしているのだから「プロ」という考え方もできるはずで、ドラフトを経ずに自由契約できるよう、NPBに訴えかけてもいいのではないだろうか。

「難しい質問ですね。どういう議論をするかによって話も変わってきます」

 四国の馬郡社長はそう答えると、経営者としての見解を述べた。

「稼ぎ方という意味で言うと、もちろん選手たちにNPBに行っていただいて、育成の対価として我々が受け取る分が多くなったらいいと思います。一方で経済原理が働いているので、総額としてNPBのキャッシュアウトが大きくなり、独立リーグの選手は獲りにくいとなるのも困るわけです。独立リーグとNPBとのやり方だけを解決しても全然うまくいかなくて、日本の野球界全体で一定のルールをつくっていただいたほうが合理的なのではと思います」

 その上で具体案として挙げたのが、「育成貢献金」だった。

福島レッドホープスの練習シーン ©中島大輔

サステイナブルな野球界へ

 サッカーのプロ選手に国際移籍金が発生した場合、その5%が連帯貢献金となり、12歳から23歳まで登録されていた全クラブに育成対価が支払われる。

 例えば2015年に元日本代表の岡崎慎司がドイツのマインツからイングランドのレスターに移った際、13億2000万円の移籍金が発生した。「フットボールチャンネル」の記事によると、小6から中3まで在籍した宝塚ジュニアFCには1320万円、滝川第二高校には1980万円、19歳から23歳までプレーした清水エスパルスには3300万円の連帯貢献金が分配される(受け取るには各チームが申請する必要がある)。 

 またアマチュア選手がJリーグに入団した際、トレーニング費用が支払われる。

 こうした「育成貢献金」を野球界に導入する場合、ドラフト指名時の契約金や、ポスティングシステムでメジャーに移籍したときの譲渡金から発生させる方法が考えられる。

 例えば2018年オフにポスティングでマリナーズと契約した菊池雄星の譲渡金は、最初に11億円が発生し、変動契約が上限に達すれば最高22億円になると見られる。すべて西武に支払われるが、そこから一定の割合で小中高時代などのチームに還元すればいい。ドラフトでは契約金に応じ、球団から過去の所属チームに育成費用を払うようにする。たとえ数%だとしても、施設の整備などに使えるメリットは大きい。

 ただし、導入へのハードルは高い。学生野球憲章は第4章第13条で「学生野球団体、加盟校、野球部、部員、指導者、審判員または学生野球団体の役員は、学生野球資格を持たない者から交流に必要な実費以外の金品の提供を受けてはならないこと」としており、ここに抵触すると考えられる。

 それでもコロナ禍の今だからこそ、現状を打破するための議論が必要ではないだろうか。今年はセンバツの入場料金が値上げされるなど、高校野球をはじめアマチュア野球は苦しい運営を強いられている。サステイナブルな運営をしていくには憲章を改正し、育成貢献金を学生野球全体の発展に使っていくという発想もありではないだろうか。

 もし育成貢献金が導入されれば、勝利至上主義の抑制にもつながるかもしれない。育成のインセンティブが明確になることで、将来を見据えて選手を育てる価値が高まり、ひいては投手の酷使が減っていくとも考えられる。高いポテンシャルを秘めるアマチュア投手の故障リスクを下げられれば、NPB球団にもメリットは大きい。育成貢献金には、球界の多くをハッピーにできる可能性があるのだ。

 こんな妄想をコタツでしているのだが、いかがだろうか。コロナ禍でプロ・アマともに苦しい状況に置かれているからこそ、収束したのちには、なんとか明るい未来をみんなで築いていけないものかと考えている。

廃校を練習場として活用している栃木ゴールデンブレーブス ©中島大輔

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