「逃げ恥」は“持てる者のドラマ”?
しかし、絶賛の声が溢れる一方で《「逃げ恥」を見て悲しくなった》というつぶやきもあった。
みくりには育休取得が可能な大企業に勤める優しい夫がいて(結局、コロナにより育休返上となったが)、頼れる実家があって、家事を外注できるお金があり、支えてくれる同僚がいる。みくりには派遣切りされた過去があるとはいえ、学歴もお金もあり、そして何より超美人だ。
もちろん人の苦悩は、傍から見た条件などでははかれない。それは大前提として、それでも「逃げ恥」が“持てる者のドラマ”だと感じた人は少なからずいたようだ。
多くの女性は(私も含めて)、特別美人でもなければ、お金もなく、地位も特別な能力もなく、約束された将来も安定もない、言ってみれば「持たざる者たち」であり、「じゃないほう」の人たちだろう。女性の生涯未婚率約14%と言われる昨今では、家庭を持っていないこともまったく珍しくない。「人生100年時代」という言葉の重みに、打ちのめされそうになるし、ときどき本気でゾクッとする。
そんな“持たざる者”に寄り添っているのが「その女、ジルバ」なのだ。
何者でもない40代“持たざる者”の希望を描く「その女、ジルバ」
なんといっても、かつて“清純派女優”として鳴らした池脇千鶴(39)が演じる、生々しいほどリアルな40代の主人公・新の説得力がすごい。役作りのために体重を増やしたのか、肩や背中には加齢を感じさせる肉が付き、メイクは少し白浮きしている。背を丸めて俯く姿勢には、生活の疲れがにじみ出ている。
特に驚いたのが、新が作業服にズボン姿でベンチに座るときの脚。脚をピタッと閉じるのではなく、少し開けて座っていた。ズボンを穿いている安心感や、内ももの筋肉の衰えを感じさせる所作だった。
この池脇の姿に、ネットでは《ドキュメンタリーみたい》という声もあがった。そして、抱える悩みもドキュメンタリー並みにリアルだ。
第1話で、新は自分を捨てた男(山崎樹範・46)に職場で再会し、「老けたな」と言われたり、職場の年下男性に「おばさん」と言われたりする日々を過ごしている。やりがいのある仕事を失い、何者でもない状態で40代になり、この先のまだまだ続く人生に呆然とし、絶望していた。
しかし、この作品で描かれるのは、持たざる者の絶望ではない。希望だ。