「これでは保守政権と変わらない」と批判
北朝鮮の挑発が続く中、韓国で北朝鮮を巡る「南南葛藤」が深まっている。
「南南葛藤」とは、進歩派の政権が誕生した1990年代後半頃から「南北対立」と対比して使われた言葉で、韓国社会での北朝鮮寄りの親北派と反北派のイデオロギー対立や分裂を指す。
韓国の歴代政権では、この「南南葛藤」をどう調整させていくのかが政権運営の鍵ともされてきた。
文在寅(ムン・ジェイン)政権も発足当初からこの課題が取り沙汰されていた。大統領選挙でも争点となった、昨年起こったTHAAD(高高度迎撃ミサイル)配備への論争で「南南葛藤」は再び頭をもたげていたが、最近では、対北政策の違いから、両派の溝がさらに広がり始めている。
今年9月に統一省が発表した北朝鮮への800万ドル相当(約9億円)の人道支援についても、韓国では賛否が激しく衝突した。
保守派のメディアが、「北朝鮮に融和的な言動をとれば、北朝鮮も融和的な態度で返してくると本当に信じているのだろうか。だとすればこの問題は一層深刻になると言わざるを得ない」(朝鮮日報社説9月22日)、「戦術核反対、対北人道的支援……なぜこのように急ぐのか」(中央日報社説9月15日)と批判の矢を向ける一方、中道・進歩系メディアはいち早く、「国際機構を通した対北朝鮮支援 大きなフレームから見て正しい」(ソウル新聞社説9月15日)、そして「対北朝鮮人道支援、南北和解のきっかけに」(ハンギョレ新聞社説9月14日)と支持を表明した。
中道派の全国紙記者が、対立の背景を解説する。
「文氏は進歩派の大統領として当選しました。北朝鮮への制裁を強化するこれまでの政策は、文大統領の支持者層に深い失望を与えていて、『これでは保守政権とまったく変らない』と批判が出始めています。
文大統領が国際社会からどれだけ批判されても『対話路線』を捨てないのは自身の信念でもあるでしょうが、こうした支持者層へのアピールでもある。
今回の人道支援はそんな背景から出たもので、文大統領が誕生した時から予想されていたものです。ただ、やはり、時機を計るべきだった。結局、文大統領は、国際社会からの理解も満足に得られず、国内では『南南葛藤』を増幅させてしまった」
文大統領が国際社会と歩調を合わせ、北朝鮮への制裁に舵を切る中、これまで韓国内の進歩派の重鎮らは制裁に異議を唱え、北朝鮮との対話を公の場でこんこんと訴えてきた。
例えば、文大統領のブレーンのひとり、文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官は9月末、「韓米同盟が壊れても朝鮮半島での戦争はいけない。平壌住民は首領、党と一心同体なため制裁をしても考えは変らないだろう」と発言。これは物議を醸し、保守派は、「文正仁は北朝鮮のアナウンサーなのか」と痛烈に批判した。