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拡大していく事件

 山下汽船は大手海運会社だったが、その後合併して現在は大阪商船三井船舶。日本特殊産業は、国鉄(現JR)の蒸気機関車の汽缶の水あかを取る「清缶剤」を製造していたとされるが、実体のない会社。社長の猪股は日本占領を担当した連合国軍総司令部のシャグノン鉄道課長と親しく、同課長が国鉄に導入を要求したリクライニングシートの日本での特許を保有するなど、利権に関わっていたという。事件は拡大していく。

海運会社や社長宅などが次々捜索を受けた(朝日)

 横田愛三郎・山下汽船社長ら逮捕(特別背任容疑)=1月15日、壷井玄剛・運輸省官房長逮捕(収賄容疑)=1月25日、運輸省内を家宅捜索(2月6日)、日立造船・浦賀ドック・名村造船一斉捜索、日立造船社長ら4人逮捕(特別背任容疑)=2月8日……。山下汽船の家宅捜索では横田社長らが記した「山下メモ」が押収され、事件の骨格が見えるようになった。読売新聞社会部編「捜査 汚職をあばく」はそのことをこう書いている。

5人だけに配られた“山下メモ”

「この“山下メモ”はトラック1杯分もあった他の押収資料と一緒に夜遅くまで日比谷公園の木陰に隠し、新聞記者の目を逃れたうえで地検に運び込まれ、こっそりガリ版でナンバーを打って5枚だけ印刷し、検事総長、最高検刑事部長、東京地検検事正、特捜部長、主任検事の5人に配り、5人が毎日このメモをにらんで考えたのです」
 この間、1月27日付朝日朝刊は早くも「出るか政界の腐敗」と報道。特別背任から官界での収賄へ飛び火し、政界へ伸びる可能性を示唆した。別項で、造船計画と業者の関係、船舶建造資金に対する政府援助の事情などを説明。2月8日付朝日夕刊は「同業各社へ波及せん 次第に疑獄の色彩深む」との解説記事を掲載している。それらによれば、海運・造船業界では、事件につながる大きな動きが重なっていた。

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早い段階から政界への波及がうわさされた(朝日)

「疑獄の遠因は明治以来の助成策」

「造船疑獄の遠因には、明治以来の政府がとってきた海運・造船業に対する保護助成政策があった。日本の近代海運・造船業は、明治政府の富国強兵・殖産興業政策の一環、国策そのものとして発達した」。渡邉文幸「指揮権発動」はこう述べる。