サラリーマン家庭の間でも増えている相続税の節税策が、近々封じられる可能性があるという。

 相続税は、一定額以上の財産を持つ富裕層に課せられてきたものだが、2015年の課税ライン引き下げにより課税対象者が増えたことで世の関心が高まり、サラリーマン家庭または定年退職者でも生前の節税策に着手する人が増えている。

 その代表は、親の課税対象財産を減らして将来の相続税を軽減するために、親が子供に財産の一部を生前贈与することだ。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

節税策である生前贈与が税制改正によって封じられる?

 国は、財産の移転に関しては人が亡くなった時の相続税で課税することを基本としている。課税されることが分かれば人は生前に財産を贈与して課税を回避しようとするため、相続税を補完するものとして贈与税を作り、1年毎に、贈与額に応じて累進で10%~55%の贈与税を課している。この贈与税の税率は相続税の税率より高く設定され、相続を待たずに生前贈与すれば損する仕組みとなり、生前贈与が抑制されてきた。

 ただし贈与税には特例が設けられ、1人につき年間110万円までの贈与は非課税になっている。これを利用して、親が息子と娘にそれぞれ年110万円を生前贈与するという節税策に着手する人が増えているのだ。

 年110万円の贈与でも効果は小さくない。

 例えば父親が8000万円の財産を持ち、相続人が子供2人の時は計470万円の相続税がかかる。これに対し、父親が子供2人と孫2人の計4人にそれぞれ年110万円の非課税贈与を2年間続ければ、相続税は計338万円まで下がり132万円の節税になる(概算)。

 生前贈与については「贈与すれば子供が浪費するだけ」「財産を貰ってしまえば子供は親の面倒を見なくなる」といった指摘もある。親の財産や家族の状況を見極める必要はあるが、非課税贈与を続ければ節税額は増え、課税ラインを下回って相続税をゼロにすることもできる。

 国の制度は上手に利用する人が得をしてそうでない人が損をするが、生前贈与はその1つとも言える。

 この生前贈与を最も利用しているのは富裕層だろう。年110万円以上の贈与には贈与税がかかるが、贈与税を払ってでも生前贈与したほうが相続税の軽減が図れる場合があるのだという。

 ちなみに2019年の1年間に贈与された額は全体で2兆430億円あまりとなり、1000万円を超える贈与を受けた人は約1万5000人に上る(申告分。相続時精算課税分を含む)。

 問題は、この生前贈与が税制改正によって封じられる可能性があることだ。税制改正の“建前”上の理由は「若い世代への資産移転の促進」だ。