アイヌ民族とのクライマックス
――神奈川県・横浜からはじまり、北海道にあるアイヌの集落を目指す旅は、すでに青森まで至っています。物語は佳境に入ってきていますが、今後はどのような展開になっていくんでしょうか。
佐々 北海道・函館に着いたら、これまで何度か登場したチャールズ・マリーズとバードらが、いよいよ直接対峙します。マリーズはバードのバディである伊藤の以前の雇い主で、伊藤を引き戻しにやってくるというのは史実通りです。バードを主人公とした漫画として描くならば旅の障害となる、いわば敵キャラ。伊藤にとっては恐怖を植え付けられた存在でもありますが、彼自身が直接ケリをつけるようなエピソードを考えています。ですから伊藤視点の物語として考えると、クライマックスのようになると思いますね。
そして、アイヌ民族が住んでいた北海道の平取(ビラトリ)という拠点集落にバードらが辿り着きます。バードが農業革命以前の狩猟採集文化が残るアイヌ民族と生活を共にすることで、今まで描いてきた本州での文化体験とも全く違うものを描けるんです。
これまでよりもっとスケールが大きくて、もっと時間軸が広い。そうした今まで描いたことのない話にチャレンジしていくので、楽しみにしていてもらいたいです。
――アイヌ民族とのエピソードは、より深く歴史の意味を考えさせられそうですね。『ふしぎの国のバード』に通底するテーマの総決算になる予感がします。
佐々 歴史を勉強しても未来がわかるわけではありません。けれど歴史を勉強すれば、現在をさまざまな視点から見られるようになります。我々日本人がこれまでにどういった歴史の道筋を辿ってきたのかを知ることで、思い込みに捉われることなく、より自由に物事を見られるようになる。それこそが歴史を学ぶ意味だと考えます。便利な文明を手に入れた結果、その代わりに何が失われたのか……そのメッセージを最後まで描き切っていきたいです。
(文=二階堂銀河/A4studio)