とある西洋人による明治時代の日本の旅を描いた漫画『ふしぎの国のバード』(KADOKAWA『ハルタ』連載中)。実在したイギリス人女性冒険家のイザベラ・バードが、1878年(明治11年)に神奈川県・横浜から北海道(蝦夷地)まで旅行した記録である『日本奥地紀行』を出典として、バードとその通訳・伊藤鶴吉の旅をコミカライズした作品だ。
文明開化の代償として、江戸時代以前の文化が失われつつあった過渡期である明治11年。すでに近代化が進んでいたイギリスから来日したバードは、当時の日本の風土を目の当たりにし、価値観を揺さぶられていく。我々日本人読者は、当時の西洋人目線になって明治11年の日本の文化を読み解くことができるのである。
作者の佐々大河氏は現在30代前半で、大学時代にイギリス近代史を学び、2013年に本作の読み切り版で漫画家デビュー。そんな佐々氏に、史実をもとにした作品を描いたきっかけについて聞いた。(全2回の2回目。前編を読む)
“嘘をついていい部分”と“ついてはいけない部分”
――『ふしぎの国のバード』が初連載作品とのことですが、連載化するまでの経緯をお教えください。
佐々 『ふしぎの国のバード』は2013年に描いた読み切りから始まりました。それからバードを主人公にした読み切り作品を何度か描かせてもらい、読者のみなさんからも好評だったそうで、編集部からシリーズ連載にしようと打診があったんです。
ただ、旅行記をもとにした歴史ものですから、下調べや裏取りに費やす時間が膨大にかかるんです。新人でしたし、絵も話も何もかも手探りで始めたため、ようやく第1巻を出せたのが2015年でした。
――そのなかで身に着けていった、創作のコツのようなものはありましたか?
佐々 史実をもとに物語を組み立ててはいますが、漫画ならではの面白さを出すためには、どこかで演出として嘘をつく必要がありました。『日本奥地紀行』のままを描くのであれば、『日本奥地紀行』を読めばいいという話になってしまいますから。実在のバードや伊藤の特徴を強調して練っていったように(前編参照)、ストーリーも娯楽作品として読めるようにアレンジをしています。
そこで重要になるのが、“嘘をついていい部分”と“嘘をついてはいけない部分”のルールを自分なりに設定すること。原作で綴られる史実をさらに面白くするために、原作に書かれていない別の要素を盛り込むこともしています。ですが、そのときに僕は当時の風習や生活に纏わる嘘は絶対につかないようにしているんです。