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 例えば、原作にもあったバードがハチに刺される回の話では、害虫駆除と作物豊作を祈願する伝統行事「虫送り」を一行が目にする描写を足しました。でも、実はそのシーンは原作には書かれていません。テーマをより明らかにするためにあえて、実際にその時期・その地域にあった「虫送り」を素材として使ったのです。とは言っても、描いた後に史実と異なることに気づいて焦ることもありましたが……(苦笑)。他にも、原作の後半でバードが経験することを、漫画では序盤のエピソードとして挿入するという、組み換えのような演出もしています。

――他にも、原作と異なるアレンジとして、バードの容姿を史実より若く見えるように描いていますね。

佐々 それは、連載前に編集部から「バードのほうれい線を描かないように」と言われたからなんです(笑)。実は、デビュー作の読み切り版では、史実通り40代中ごろに見えるように描いています。

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 ヘボンやパークスなど、他の実在の人物は実年齢通りであるにも関わらず、バードだけ若い女性として描くのは、エイジズムやルッキズムといった切実な問題にも繋がりかねません。読んで傷つく人がいるかもしれない要素を漫画に反映させることに、迷う気持ちも未だにあります。

あえて序盤にテーマを語らせる――その興奮

――演出と言えば、作中の日本人の会話は全てフキダシにミミズのような日本語が書かれ、読者が理解できないようにされています。

佐々 それは誰の視点の話なのかを重要視しているからですね。この漫画は主人公のバード視点で物語が進みます。バードの立場になれば、当時の日本人たちが何を言っているのかよくわからないわけですから、そのバード視点を大事にしようと考えて、“くずし字風”にしてセリフが読めないという演出を思いついたんです。

ふしぎの国のバード』第1話より

 漫画内の日本人が話しているセリフを読者にも教えたほうが、知識を得るという意味で正解だとは思います。でも、あえてそれはしないわけです。バードがその内容を知りえる状況ではないから、読者にもバードと同じ感覚を味わってもらいたいので、そういった部分はこだわって作っていますね。

 また、これも読者がバードと同じような体験ができるようにという狙いから、登場する日本人の行動や考え方は、今の我々とは全く異なることをあえて選んで描いているんです。現代の日本にも残っている当時の風習はありますが、読者のみなさんにも“ふしぎの国”に迷い込んだ感覚や、文明が滅んだことで“失われたもの”を知っていただくために、取捨選択や強調するといった演出は加えています。