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ベテランセッターが若いアタッカーを育てるような口ぶりで

「練習ゲームをしていた時、ある選手に同じトスを3本上げ続けた。注意しようと籾井を呼ぶと、『○○さんに挙げたトスのことですよね』と話の先手を打たれ、『真ん中が空いていたので、ワンレグ(片足で踏み切る移動攻撃)がベストと○○さんに気づいて欲しくて同じトスを挙げた』と言うんです。ベテランセッターが若いアタッカーを育てるような口ぶりでした」

 中田も現役時代、トスをコントロールすることでアタッカーに気づかれないようにジャンプ力を高めさせ、アタックに入る助走のスピードを養うなど、攻撃陣の能力を引き出してきた。だが、そんな芸当ができたのは20代後半のベテランの域に達してから。

銅メダルを獲得した1984年ロサンゼルス五輪での中田久美(右から3番目) ©文藝春秋

 代表入りしたばかりで、しかもチームでも最年少の籾井が、先輩アタッカーたちの欠点を補おうとする姿勢に中田はにんまりした。

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 コロナ禍で、国際大会ができなかった代表の久々の試合は5月に行われた東京チャレンジ。対戦相手はランキング1位の中国。

 中田はこの大会に籾井を起用。この采配には誰もが驚いた。新人セッターは、正セッターの控えとして国際大会の経験を何年か積み、その後、満を持してデビューさせるというのがバレー界の定石だからだ。当然、懸念の声も上がった。だが、中田の決断は揺るがなかった。

「籾井を育てないと、日本女子バレーに未来はない」

 世界チャンピオンの中国にはストレートで負けたものの、籾井はへこむどころかきりりとした面持ちで前を見た。

「緊張は全くしなかった。実際に中国とやってみて学ぶことがたくさんありましたし」