ゼネコンの発注者までが狙われた
工藤會にとって、みかじめ料が無くなることは死活問題だ。
平成18年、大手ゼネコンが暴力団への資金断絶を打ち出すと、これをきっかけに連続銃撃事件が起こる。
7月に小倉北区で大手建設会社の九州支店に対する銃撃事件が起こると、翌平成19年2月までに、建設業者や工事現場に8件の銃撃事件と2件の放火事件が発生した。そのうちの一つはゼネコンに発注した福岡県の有力企業・西部ガスの本社への銃撃だった。暴力団への資金断絶を表明したゼネコンの顧客である発注者までが狙われたのだった。
背景はこうだ。工藤會関係企業に対する取締りを強化した結果、地元建設業者の中には、みかじめ料を明確に断るものもでてきた。これまでなら、その関係先に銃弾を撃ち込めば屈服していたものが、銃撃されても従わないものが出てくるようになった。
そのために、それら業者の元請け、更には発注者を狙うようになっていったのだ。
その後も元請け企業への攻撃はエスカレートし、スーパーゼネコンの一つ、清水建設が狙われた。
平成19年3月、これらの事件が一件も検挙できない中、現地本部への残留を強く希望していた私は、福岡空港警察署署長に異動となった。
トヨタへの手榴弾投てき事件の衝撃
同年11月、トヨタ自動車九州小倉工場内にある清水建設の現場事務所が放火された。その2週間後に、八幡西区でやはり清水建設の現場事務所に銃弾が撃ち込まれた。さらに2週間後、福岡市東区で清水建設関連の会社事務所への発砲事件が発生した。
いっぽうで12月には八幡西区で不動産業者の自宅への発砲事件が発生し、同日、小倉北区で建設会社社長が何者かに刺され、翌年1月に亡くなった。
日本のトップ企業のトヨタも標的となった。
平成20年9月15日、トヨタ自動車九州苅田工場へ手榴弾が投げ込まれ、地面に約10センチの穴を開けた。現在まで検挙に至っていないが、原因は当時この工場の工事を請け負っていた清水建設に対する嫌がらせと思われる。清水建設が暴力団の違法・不当な要求を撥ね付けると宣言してから、前述のように暴力団と思われる者から度々銃撃等の被害を受けていたからである。
日本のトップ企業に対する事件は、中央経済界にも衝撃を与え、北九州市に進出を計画していた大手企業数社が断念したと聞いている。暴力団による“テロ”は福岡経済にも計り知れないダメージを与えたのだ。
このトヨタ自動車九州の事件後、工藤會を含めた暴力団対策の抜本的見直しが行われた。