「一緒に少しだけ」優勝特番を終えた柳田からの電話
その時、優勝特番を終えたソフトバンク柳田悠岐から僕らに電話がかかってきた。
「糸井さん、金子さん、ほんとに有難うございました。オリックス、めちゃ強かったです。ホンマ紙一重でした。僕らオリックスを尊敬しています。僕らのお祝いはもう終わったんで一緒に少しだけ飲みましょうよ。大貴さんもいるんだったら答え合わせしましょうよ。糸井さん、金子さんに会いたいですよ」
2014年、10月2日。あの日の夜は柳田悠岐という男の寛大さと人間力の高さに涙しそうになった。アルコールを一滴もとらない金子千尋も糸井嘉男に連れられて柳田のもとへ向かった。
落ち合った柳田は、「ホンマに有難うございました。お疲れ様でした」と2人を労う。
それまで悔しそうだった糸井も金子も少しずつ優勝という呪縛から解き放たれ、ソフトバンクの強さとオリックスの快進撃の要因について柳田らと語り合っていた。時には僕も意見を求められ実況者から見た冷静な意見、スポーツキャスターから見たデータ的観点での両チームの分析を話した。朝までオリックスがどうすれば強くなるかを真剣に考えていた。
何ものにも代えがたい素晴らしい夜だった
賛否両論あるかも知れない。でも僕はその光景を見ていて素晴らしいなと思った。勝敗がつき、優勝できたチームと出来なかったチームがその日の夜に人知れず落ち合って、双方を称え合い、尊重し合い、そして次にまた強くなるための方法論を語り合う。いやいや敵同士ならバチバチにライバル心を燃やし続けて優勝が決まった夜は会話なんてしないだろう!っていう人もいるかも知れない。その気持ちもわかります。でも素敵な光景だった。プロ野球って素晴らしい。自分のチームと野球を愛しているんだと。
ペナントレースには知られていないドラマがいっぱいある。彼らが日本球界をこれから背負っていくだろうし、この血が流れる後輩たちによってまたソフトバンクとオリックスの優勝決定戦があるかも知れない。率直にそう感じた。
あの日から間もなくちょうど7年の時を迎える。糸井嘉男と金子千尋はもうオリックスにはいないけれど、あの時の悔しさを知る、その時の素晴らしさを知る、または見ている選手たちがオリックスに入る。そして、あの時のオリックスの強さを知るソフトバンク戦士が柳田をはじめ多くいる。
この年、この日、この時、この瞬間にどれだけ優勝したいか、勝ちたいか、技術的に上回りたいか……簡単にできることではないと思う。でも、これが出来たチームだけが嬉し涙を流せる。その時が刻一刻と迫っている。
オリックスが優勝争いを繰り広げる時、必ず思い出される2014年10月2日。あの夜は悔しくて仕方なかった。でも何ものにも代えがたい素晴らしい夜だったことをようやく皆さんにお伝えできる日が来た。いつ、このエピソードを出そうか悩んできた。
時代が変わり、番組形態も変わり、地上波テレビではあまり選手のドラマをお伝えすることが出来なくなった今。この場所で今、皆さんにお話しできることを幸せに思い、僕は残りのペナントレースを見届けようと思う。また皆さんにお伝えできる素晴らしいストーリーが生まれるはずだから。応援しましょうよ。コロナ禍でも勇気を与えてくれるのが彼らです。愛しましょうよ。ペナントレースって素晴らしい。
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