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3位・藤井聡太と準優勝・伊藤匠 優勝した川島滉生さんが“伝説の写真”に抱える複雑な思い

3位・藤井聡太と準優勝・伊藤匠 優勝した川島滉生さんが“伝説の写真”に抱える複雑な思い

川島滉生さんインタビュー #2

2021/11/12
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 2学年上には、小学校時代は三軒茶屋将棋倶楽部で腕を磨き、その後東大に進学、将棋部に入った横川天紘さんがいる。横川さんは川島さんに「ぜひ、東大に入って一緒に将棋をしよう」と誘ってくれた。もともと憧れを持っていた東大を第一志望にして、川島さんは受験勉強に力を入れた。

たっくんと6年ぶりの再会

 その頃、伊藤匠四段は奨励会の有望三段。実は川島さん、ライバル争いを繰り広げていた伊藤四段が奨励会に入ってから、ずっと会っていなかったのだ。奨励会受験をせず、研修会も辞めた自分のことをどう思っているのかも知らなかった。

「一度(橋本)力が、たっくんと会って僕の話をしたそうです。そうしたら『あいつは突然消えたんだ』というようなことを言っていたと僕は力から聞きました。たっくんにしてみれば、そうだったんだなと」

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 その橋本さんから、将棋を指す会に「受験勉強の息抜きに」と誘われたのが、高2の終わり。橋本さんは伊藤三段にも声をかけ、たっくんとこーせーの6年ぶりの再会が実現した。

 普通なら「今どうしてる」と近況報告や昔話に花が咲くところだが、川島さんと伊藤三段の関係ではそうはならない。伊藤三段は「指そう」と声をかけ、2人の対局が始まった。

©石川啓次/文藝春秋

「奨励会の三段が僕みたいなアマに指そうと言ってくれるなんてありえないこと。嬉しかったですね」

 1手20秒のルールで川島さんが勝った。伊藤三段は即座に、一度川島さんが詰みを逃していることを手順とともに指摘すると、すぐに「もう1局」。

「今度は、ボコボコにされました。強かったです。独特の手つきも、感想戦をしたらすぐに次の対局を始める負けず嫌いなところも全然変わってなくて。でも、声が低くなっているのには驚きました。もともと子どもにしては低めだったのが、さらに低音になっていました」

日本テレビから出演依頼

 LINEは交換したけれど「たっくんの頭の中は、昔も今も将棋でいっぱいというのは分かりました。思えば雑談みたいな話もほとんどしたことがありませんでした。僕はそういう話は好きだけど、たっくんはおしゃべりしないんですよ。将棋以外の話はしたことがありません。だから、他愛のないことで連絡して、たっくんの時間を無駄にするのは嫌でした」。ずっと会っていなくても、伊藤三段が寸暇を惜しむように将棋に向き合っていることは、確信していた。

 高3の7月、藤井聡太七段は初タイトル「棋聖」を獲得した。決着局の前日、川島さんが高校にいると校内放送で「3年〇組の川島君、職員室に来てください」。「え、何か悪いことした?」。

 びくびくしながら職員室に行くと、将棋部の顧問の先生が「藤井七段のことで日本テレビから出演依頼があった」という。明日、日本テレビに来て欲しいという依頼で、受験勉強中ではあるが「断ったら困るのではないか」と考えて引き受け、顧問の先生と収録に向かった。