将棋の勉強に平日は5時間、休日は12時間
「でも、(橋本)力との差は中学生になってから完全にひっくり返されていた。当然ですよね。力は頑張っていたわけだから。自分も日本一になりたいと急にエンジンがかかりました」
川島さんは、人が変わったように将棋に打ち込み始める。中高一貫校の強みで中3で受験勉強をしなくていい。学業は授業中に集中して、家でやるのは最低限の宿題のみ。あとは将棋の勉強にあてた。平日は5時間、休日は12時間。
高1の5月に川島さんは、予定通り高校選手権東京都代表の切符を手にすると、8月に長野県で行われた全国大会に出場した。予選を3勝1敗で勝ち抜くと、決勝トーナメントを勝ち上がり、ついに優勝を手にした。
「小学校時代も小学生名人戦ベスト16くらいで全国優勝はなかったので、嬉しかったです。中学では、(橋本)力同様に活躍していた仲間がいて、優勝候補は彼らのほう。小学校時代から僕のことを知っている人からは『川島復活』みたいな反応でした」
優勝した川島さんのインタビューは、ネットの高校生向けメディアなどに掲載された。そこで川島さんは、小学4年くらいで「プロの道は選ばないと自分で決めた」「プロを目指すと将棋が楽しくなくなってしまうと考えたから」と答えている。
その後、将棋は楽しめているのだろうか。
「難しいですね。モチベーションは上がったり下がったりです。辞めようかなと思ったこともあります」
他に打ち込めることを見つけたいとは思わないか聞いてみると「見つけたい気持ちはあります。でも、自分の能力的に、将棋以上に成果を残せるものがあるとも思えなくて……」。アマの将棋にだって、プレッシャーはあるし、期待だってされる。プロを目指さないと決めた時、今後は将棋が辛くならない適切な距離で将棋と向き合おうと思った。しかし、川島さんにとっての幸せな将棋との距離はなかなかつかめないままだ。
大学受験は東大を第一志望にし、受験勉強に力を入れる
高1での全国優勝で「燃え尽きた」という川島さん。今度は大学受験に向けて勉強しようと考えるようになった。全国優勝という大きな成果があれば、将棋の強豪大学から入学のお誘いがあったり、AO入試や自己推薦入試などの方法で有名大学入学への道も開ける。
「将棋を使って大学に進学する方法があるのは知っていましたし、担任の先生や友達からも勧められました。でも、将棋しか一生懸命やったものがなく、他のことでどれだけ自分ができるのか分からないまま大学に入って社会に出てしまうのはまずいと思いました。大学受験は何十万人規模の競争です。その中で自分がどれだけできるか試したいと思い、学校には一般入試で受験しますと話しました」
三軒茶屋将棋倶楽部を主宰する宮田利男八段は「教え子には東大や麻布(中高)に進学した者がたくさんいる」と取材に答えていたことがあるが、それは本当だ。川島さんも「三茶の先輩は一流大学に進学した人が多く、自分も当然そうだと思われてしまうのではないかと、プレッシャーでした」と話す。