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3位・藤井聡太と準優勝・伊藤匠 優勝した川島滉生さんが“伝説の写真”に抱える複雑な思い

3位・藤井聡太と準優勝・伊藤匠 優勝した川島滉生さんが“伝説の写真”に抱える複雑な思い

川島滉生さんインタビュー #2

2021/11/12
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 法学部は、早大文系学部では圧倒的に必要な勉強量が多く、川島さんは朝9時から夕方まで講義があるような忙しい毎日を送っている。早大は、いち早く換気設備を整え、川島さんが入学したときには多くが対面授業になっていた。授業はサボったことはなく、他学部に比べ難しいと言われる試験前にはさらに勉強する。GPAは3超えと成績優秀だ。

「学生である以上は勉学が優先だと思っています。将棋は平日に長くて2時間、休日に5時間くらいですかね。通学時間に詰め将棋を解いたりしています」

ひょっとして自分もプロなれたかな

 第4回ABEMAトーナメントのドラフト会議が放送されたのは、川島さんが早大に入学する直前のことだった。注目の藤井聡太リーダーが1巡目で指名したのは、同じ歳の伊藤匠四段だった。そしてもう1人のチームメイトは高見泰地七段。あの写真は、チーム藤井の3人ともが写っていることが大きな話題になった。

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2012年1月に行われた小学館学年誌杯3年生の部の上位3人。前列左が悔しそうな表情の伊藤匠四段、前列真ん中が伊藤匠四段を決勝で倒し優勝した川島滉生さん、前列右が藤井聡太三冠。後列は大会ゲストの森内俊之九段(左)と、高見泰地七段(右)。この写真は、将棋ファンの間ですっかり有名になった(伊藤雅浩さん提供)

 何度も目にしたあの写真だが「見ると辛くなりますね」と川島さんは言う。「自分が奨励会に入っていたらどうなっていただろう」。「藤井三冠やたっくんに比べて、自分は何をやっているのだろう」。いろいろな思いが胸に去来するからだ。

 学業でも将棋でも努力して成果を出し、一般的に見れば川島さんは優秀な青年だろう。同じ歳の2人がすごすぎるだけだ。十分に手が届くところにあった奨励会。

「ひょっとして自分もプロになれたかなと思ったりもします。でも、冷静に考えればきっと途中でくじけていたと。奨励会に入ってプロになれるのは、2割くらいと言われますが、僕はその2割に入れなかったら自分の将来どうなるのかと不安になりました。奨励会に入って絶対にプロになるという覚悟は持てませんでした」

たっくんが僕の力を引き上げてくれた

 小学生なら、もっと甘い考えで奨励会を受けてもおかしくないし、小4で研修会C2なら自分は天才と思っていてもおかしくない。なぜ、そんなに大人びた判断ができたのか問うと、「それは、近くに自分より上のたっくんがいたからです。自分がそこまで強いとは思えませんでした」。

©石川啓次/文藝春秋

 もし、身近にたっくんがいなければ、自信を持っていられたのか聞くのは意味がない。川島さんは「たっくんがいなければ、こんなに将棋に注力することはありませんでした。たっくんが僕の力を引き上げてくれたんです。たっくんと一緒に将棋ができてよかった。家族を除けば僕の人生に一番影響を与えた人だと思っています」と語っているからだ。

 もう1つ気になるのが、奨励会有段者のB君のことだ。あの大会の準決勝、川島さんはB君に必敗の局面まで追い込まれていた。ところがB君が詰みを逃し、川島さんが勝ちを拾ったのだ。真ん中の自分だけがプロにならなかった写真。

「自分が準決勝で負けて、代わりにB君があの写真に入っていれば、この先B君がプロになったときに、あの写真が話題になるじゃないですか。そっちのほうが良かったのではないか、なんて思うんです」