法学部は、早大文系学部では圧倒的に必要な勉強量が多く、川島さんは朝9時から夕方まで講義があるような忙しい毎日を送っている。早大は、いち早く換気設備を整え、川島さんが入学したときには多くが対面授業になっていた。授業はサボったことはなく、他学部に比べ難しいと言われる試験前にはさらに勉強する。GPAは3超えと成績優秀だ。
「学生である以上は勉学が優先だと思っています。将棋は平日に長くて2時間、休日に5時間くらいですかね。通学時間に詰め将棋を解いたりしています」
ひょっとして自分もプロなれたかな
第4回ABEMAトーナメントのドラフト会議が放送されたのは、川島さんが早大に入学する直前のことだった。注目の藤井聡太リーダーが1巡目で指名したのは、同じ歳の伊藤匠四段だった。そしてもう1人のチームメイトは高見泰地七段。あの写真は、チーム藤井の3人ともが写っていることが大きな話題になった。
何度も目にしたあの写真だが「見ると辛くなりますね」と川島さんは言う。「自分が奨励会に入っていたらどうなっていただろう」。「藤井三冠やたっくんに比べて、自分は何をやっているのだろう」。いろいろな思いが胸に去来するからだ。
学業でも将棋でも努力して成果を出し、一般的に見れば川島さんは優秀な青年だろう。同じ歳の2人がすごすぎるだけだ。十分に手が届くところにあった奨励会。
「ひょっとして自分もプロになれたかなと思ったりもします。でも、冷静に考えればきっと途中でくじけていたと。奨励会に入ってプロになれるのは、2割くらいと言われますが、僕はその2割に入れなかったら自分の将来どうなるのかと不安になりました。奨励会に入って絶対にプロになるという覚悟は持てませんでした」
たっくんが僕の力を引き上げてくれた
小学生なら、もっと甘い考えで奨励会を受けてもおかしくないし、小4で研修会C2なら自分は天才と思っていてもおかしくない。なぜ、そんなに大人びた判断ができたのか問うと、「それは、近くに自分より上のたっくんがいたからです。自分がそこまで強いとは思えませんでした」。
もし、身近にたっくんがいなければ、自信を持っていられたのか聞くのは意味がない。川島さんは「たっくんがいなければ、こんなに将棋に注力することはありませんでした。たっくんが僕の力を引き上げてくれたんです。たっくんと一緒に将棋ができてよかった。家族を除けば僕の人生に一番影響を与えた人だと思っています」と語っているからだ。
もう1つ気になるのが、奨励会有段者のB君のことだ。あの大会の準決勝、川島さんはB君に必敗の局面まで追い込まれていた。ところがB君が詰みを逃し、川島さんが勝ちを拾ったのだ。真ん中の自分だけがプロにならなかった写真。
「自分が準決勝で負けて、代わりにB君があの写真に入っていれば、この先B君がプロになったときに、あの写真が話題になるじゃないですか。そっちのほうが良かったのではないか、なんて思うんです」