1ページ目から読む
4/4ページ目

『紅の豚』の女性と、女性の『紅の豚』

 映画では世界恐慌で男たちが出稼ぎにでてしまった町工場で、女性だけでポルコの愛機サボイアを作り直すシーンがある。

 設計主任は17歳のヒロイン、フィオである。

 設計がフィオと聞いてポルコは他をあたると修理を断ろうとするが、フィオから「わたしが女だから不安なの? それとも若すぎるから?」と問われる。

ADVERTISEMENT

 

 宮崎監督は小さな町工場で技師が勘で図面を引いて、近所の女性たちを雇って飛行機を作るような、人間の勘やセンス、経験や熱意が飛行機の性能に影響を与えていた時代が大好きなのである。またそういった仕事には普遍的な「感動」があるとインタビューで語っている。

 そんなシーンは、そのまま『紅の豚』の製作陣にもあてはまる。

 本作では監督自ら「すべての重要な仕事は女性に任せよう」と決め、「女性で作る紅の豚」というキャッチフレーズまで作って、中心的なスタッフに女性を抜擢した。作画監督に賀川愛(めぐみ)氏、美術監督に久村佳津氏とアニメ製作で最も重要なポストに女性を起用している。また録音演出に浅梨なおこ氏など、製作クレジットをみると重要な仕事に女性が多いことに気付く。

 当時のアニメ制作の現場で、女性アニメーターは多くいたものの、製作の主要スタッフを女性で固めることは当時のジブリでも珍しく、アニメ業界でも画期的なことであったという。宮崎監督が理想とする家内制手工業的な町工場のスタイルは、そのままスタジオジブリの体制そのものであることは勘の良い方は察しがつくだろう。

 

「機内上映向け」から飛躍した『紅の豚』

『紅の豚』は宮崎監督の慰労として企画がスタートしたものの、あれよあれよと長編劇場用アニメに膨れ上がっていった。宮崎監督が当初思い描いていたノーテンキな空戦活劇アニメから、当時の世界情勢や監督自身の思想までもが投影されたことにより、結果それまでの宮崎作品の中でもとても個人的で複雑な作品となったのである。

 以降、宮崎作品は『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』と続けて大ヒットし社会現象を巻き起こしながらも、その作品世界はより複雑化し、奥行を増していくことになる。

 その端境期に生まれた『紅の豚』は宮崎駿作品の中でも重要な映画であるといえよう。

 

【参考文献】
『ジブリの教科書7 紅の豚』文春文庫
『風の帰る場所』宮崎駿/文春文庫
『仕事道楽 新版 スタジオジブリの現場』鈴木敏夫/岩波新書
『ジブリの仲間たち』鈴木敏夫/新潮新書
『飛行艇時代』宮崎駿/大日本絵画
『スタジオジブリ絵コンテ集 紅の豚』宮崎駿/徳間書店
『出発点1979~1996』宮崎駿/徳間書店
『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』スーザン・ネイピア、仲達志・訳/早川書房
『キネマ旬報 1992年 7月下旬号』キネマ旬報社