8.『いまさら翼といわれても』
折木奉太郎は神山高校生徒会長選挙に関わっている親友の福部里志から、開票したところ票数が生徒全員の人数より多かったという奇妙な事件があったことを聞かされる。果たしてその真相は(「箱の中の欠落」)。中学校時代の英語教師・小木は、3度も落雷に遭遇したという。その話を聞いた奉太郎の脳裏には嫌な予感が(「連峰は晴れているか」)。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」がモットーの奉太郎。その理由を、同じ古典部の千反田えるから訊かれた彼は、小学校時代の思い出を語り出す(「長い休日」)。責任感が強い筈のえるが、市が主催する合唱祭で歌う前に姿を消した。奉太郎はえるの行方を推理する(表題作)。
学園ミステリー「古典部」シリーズの第6弾となる短篇集。古典部の面々の過去と現在と未来が、6つの物語から浮かび上がる。
▼ここが魅力!
明治大学ミステリ研究会「タイトルの見事さに膝を打った読者も多いだろう。主人公たちがどう変化していくか、どんな未来を描くか見届けたい」
森谷明子「『古典部』シリーズは、ほろ苦い高校生活に読者を立ち戻らせてくれる。時としてシビア、時として切ない。そして、いつも懐かしい。ミステリ要素も充分」
東京大学新月お茶の会「登場人物の過去をひもとき、現在を描き、未来を予期させることで人間という謎に迫るその物語は、紛れもない青春ミステリである」
9.『この世の春 上下』
宝永七年、下野北見藩で政変が起きた。藩主の北見重興が隠居し、権勢を振るっていた御用人頭・伊東成孝が失脚したのである。重興はどうやら心の病で強制隠居させられたらしい。領内の長尾村で暮らしていた元作事方組頭・各務数右衛門の娘・多紀は、父の葬儀の直後、藩主の別荘である五香苑へ連れて行かれる。そこでは前藩主・重興が座敷牢の中で暮らしていた。重興と対面した多紀は、彼の心が時おり複数の人格に支配されることを知り、また、意外な人物が極秘で幽閉されていることも知らされる。重興の心の病は、かつて藩上層部に抹殺された一族の呪いによるものか、それとも他に原因があるのか……真実を探ろうとする多紀たち五香苑の人々に、事実隠蔽を図る勢力の魔の手が迫る。
精神分析学が存在しなかった江戸時代を舞台に、ひとりの人間の心の病の原因を探求してゆく意欲的な大作。
▼ここが魅力!
柘植和紀(星野書店近鉄パッセ店)「三十周年を記念する待望の長編にして、大満足の一冊。話の展開もいい意味で裏切られて、下巻突入直前からはドキドキしっぱなしでした。宮部先生のヒロインは聡明で芯が強い憧れの女性です。久しぶりに読み終わりたくないな、と思う大作でした」
阿部陽一「ミステリーとファンタジーと歴史の美しいハーモニー」