国内部門 第1位 著者に聞く――今村昌弘
読者にトリックを見破って貰えたら、本当に嬉しいです。
医療機関で放射線技師として働いていた今村さんは、小説に専念するため、29歳で仕事を辞めた。「32歳の誕生日までに芽が出なかったら復職する」と両親に約束し、期限は今年の秋だった。
「ぎりぎり滑り込みましたね(笑)。投稿は20代半ばから始め、初めて2次選考まで残った賞で“長編も書けるのではないか”との選評をいただきました。もっと良い作品を書きたい、と欲が出たんです」
多くのミステリー新人賞で「該当作なし」が続いた今年、本格推理の牙城「鮎川哲也賞」を射止めた本作は、アンケートでも圧倒的支持を集めた。
「同じ東京創元社さん主催で短編が対象の『ミステリーズ!新人賞』の落選通知を受けたのが昨年8月。気落ちしましたが、10月末の鮎川賞の締め切りに向け、約3カ月で初めての長編を仕上げました」
本作の冒頭近く、学食で女子学生が選択するメニューを巡り、ミステリ愛好会会長と主人公の葉村とが、推理の火花を散らす場面が印象深い。新入生の葉村はまず公認サークル「ミステリ研究会」に入ろうとしたが、サークル員らが「最近流行りの、キャラクターの個性を前面に出し、恋愛や青春小説の要素もふんだんに盛り込んだライトミステリとも呼ぶべき作品群」を好み「ヴァン・ダインや都筑道夫の説明を1からしなければならない」ことに嫌気が差していた。そんな折、自分と同じく古典と本格推理をこよなく愛する明智に出会い、彼主宰の非公認団体「ミステリ愛好会」への入部を決めていた。
「漫画やゲームを買ってもらえない家で育ちまして、小学校の図書館で本を片っ端から読む少年時代でした。ルパンシリーズ、ホームズシリーズなどは読破しましたが、ミステリーを好んで読んでいる、という意識はなくて、『宝島』や『十五少年漂流記』など冒険小説も大変に好きでした。ミステリーを意識的に読むようになったのは、自分でも小説のようなものを書き始めるようになってから。凄いな、と思ったのが綾辻行人先生、有栖川有栖先生の作品群です。ちゃんと読者にも犯人が特定できるように段階が踏まれている書き方。これが本格推理というものなんだ、と学び、自分の好みに気付きました」
初長編にはやってみたかったこと全てをぶち込んだ。全編に次回作に繋がりそうなエピソードが埋め込まれている。
「ショートショートを2日で1作、1年書き続けた時期もあります。プロットさえ決まれば書くのは多分遅くないです。続編プロット考案中です」