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2.『盤上の向日葵』

『盤上の向日葵』(柚月裕子 著)

新米刑事、退職教員、虐待される少年――
将棋だけが男達を結んだ

 1994年12月、埼玉県警の2人の刑事が山形県天童市にやってくる。地元では将棋のタイトル戦、竜昇戦が開催中。史上初の七冠制覇を狙う壬生芳樹竜昇と東大卒の上条桂介六段の対決は3勝3敗で最終戦を迎えていた。

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 その4ヶ月前、埼玉県・大宮郊外の山中で男性の白骨死体が発見された。身元は不明だが、現場から希少な将棋の駒が発見されていた。大宮北署の佐野巡査は県警捜査一課の石破警部補とともに捜査に当たる。佐野は棋士の養成機関・奨励会の元会員、石破は変人で知られる腕利き捜査官。ふたりはこの世に7組しかない超高級駒の持ち主を追って日本各地に飛ぶ。

 1971年1月、長野県諏訪市に住む将棋ファンの元教師・唐沢光一朗は、ひょんなことから自分の捨てた将棋雑誌を回収していく少年と知り合う。彼の家庭は困窮していたが、将棋への情熱、類稀なる才能を秘めていた……。

 松本清張ばりの社会派タッチで棋士たちの数奇な人生劇を活写、ヤクザな世界を題材にした捜査小説『孤狼の血』に続く話題の将棋ミステリー。

▼ここが魅力!

藤井美樹(紀伊國屋書店広島店)「本当にあの天才棋士が人を殺したのか。今の将棋ブームを予見したかのようなタイミングで、実在人物を頭に浮かべつつ、天才達の生き様、壊れっぷりに魅せられてしまう」

伊藤昭「平成版『砂の器』であり、『麻雀放浪記』将棋版であり、さらに横溝正史風の因縁噺も絡む。様々なピースがうまくはまって、560頁一気読みの慟哭ミステリーだ」

石川真介「女流“将棋ミステリー”の記念すべき第一作。棋戦と殺人の進行に伴うダイナミックな人間乱舞は抜群にサスペンスフル」

山下康治(トーハン)「主人公のクズな父親と真剣師東明の描き方がよい。死期の近づいた老真剣師との勝負は読み応え抜群」

3.『ホワイトラビット』

『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎 著)

誘拐は割に合わない職業か?
軽妙かつシャープな伊坂節唸る快作

 兎田孝則は夜空を仰いで新妻の綿子ちゃんのことを思うような男だが、その職業は人の誘拐だった。相棒との仕事帰り、彼は所属する誘拐グループの資金を横領した折尾の話に花を咲かせる。折尾は管理係をそそのかし、資金をよその口座に移したまま失踪、追われていた。そんな充実したある日、綿子ちゃんが外出先から戻らず、深夜かかってきた電話の声がいった。「おまえの妻を誘拐している」。

 1ヶ月後、仙台の高級住宅地にある佐藤家に銃を持った男が侵入、「白兎事件」の幕が切って落とされる。家には母親と長男の勇介しかいないと思いきや、2階に父親も隠れていた。男は一家全員を監禁するが、隙をついて勇介が警察に通報。夏之目課長率いる宮城県警特殊捜査班SITの出動と相なる。

 かくて虚々実々の駆け引きが始まるが、犯人はある男の行方を追っていた。そいつを期限までに連れ帰らないと大切な人の命に危険が……。

 泥棒の黒澤も加わる個性派揃いの配役、軽妙な文体、巧緻なプロットと伊坂タッチ全開の犯罪ミステリー。

▼ここが魅力!

阿津川辰海「仕掛けの伏線の一部は明示されているが、回収されたと気付いた時には読者は既に術中に落ちている。著者のユーモアセンスすら仕掛けに奉仕するパズルミステリの傑作」

川島秀元(ジュンク堂吉祥寺店)「キャラクターの造型にウィットの効いた会話、ストーリー展開が素晴らしく、伊坂節全開。最後に明らかになる結末に、してやられました」

堀啓子「ミイラ取りがミイラに、と思わず唸る幕開き。文学や星座、神話についての薀蓄も丁寧で、取り散らかった印象を与えずに伏線となる要素を孕ませる技巧はさすが」

阿尾正子「途中で『えっ?』と声がもれ、見えていた風景ががらりと変わる。華麗なる伊坂マジックをご堪能あれ!」