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「生活費の半分以上を部屋代にとられてしまう…」韓国のソウルで20代の若者が“住居貧困”に陥る根深い事情

『搾取都市、ソウル ――韓国最底辺住宅街の人びと』より #1

 若者たちは本当に貧乏なのか。街を歩けば、今日の若者たちほど豊かな文明の恩恵を受けて、恵まれた消費生活をしている者はいないように見える。彼らのインスタグラムには各地のレストランの写真があふれ、頻繁に海外を行き来する経験、物質よりもさらに重要な趣味の饗宴が広がっている。

 もちろん「若者」という言葉で、すべての20代をひとくくりにすることはできない。SKY大学(※ソウル大、高麗大、延世大の頭文字をとった韓国の超一流大を指す)に通う、ソウル出身の中産階級以上の若者もいれば、重工業都市の高卒ブルーカラー労働者もいるし、専門大(※日本の専門学校や短大などにあたる)出身で非正規雇用のコールセンター職員という20代もいるだろう。しかし「若者の住居貧困」は往々にして、生まれてはじめて親から独立した時に経験することから、ここから先は「若者」といった場合、学業や就職などの理由で地方からソウルに出てきて1人暮らしをしている人を対象にしたいと思う。

 若者は本当に「貧しい」。少なくとも統計的にはその兆候が明らかだ。さらに全体が豊かになる趨勢の中で、唯一住居貧困率が逆行しているのがこの世代である。国全体の住居貧困率は2005年の20.3パーセントから2015年は12.0パーセントと減少傾向にある。ところが若者層、特にソウルの若者層は例外である。ソウルで1人暮らしの若者の住居貧困率は2005年の34.0パーセントから2015年には37.2パーセントに上昇した。大学進学やスペック(※韓国では進学や就職に有利な資格・実績・経験などを「スペック」という)集め、公務員試験の準備などで地方の若者はソウルに集まってくる。しかし親からの援助は限られており、考試院などの非住宅で暮らす確率は高く、またキッチン付きのワンルームで暮らすにしても生活費を節約するために「最低の住居基準」以下の廉価な暮らしを選択するからだ。

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この写真はイメージです ©iStock.com

 貧しく、定着できない今日の若者は定住しない。いつもどこかをさすらっている。5年6ヶ月の間に6回の引っ越しをした私の経験からしてそうだ。長くても1年の契約、それにしたって兵役や語学留学などのさまざまな事情で契約期間満了の前に荷物をまとめることも少なくない。またインターンに採用でもされたら、職場近くに引っ越さなければいけない。面倒だからか、大家が嫌がるからか、理由はともあれ「転入届け(※これがないと住宅賃貸借保護法の保護が受けられない)」を出すことは稀だ。したがって、その家で「嫌な思いをしたこと」は改善されずに次の入居者に引き継がれ、バラバラの若い住民たちは政治的なパワーを持つこともできず、暮らしの質は一向に良くならない。

 その反面、既得権者が結託する既成政治の壁は厚い。選挙のたびに票を集めなければならない選出職の公務員は、既成世代(※若者との対語で、すでに安定的な地位を確保した世代のこと。主に40~60代後半を指す)、資産家と強く結びついている。彼らの利益を守るために、若者たちとの約束をないがしろにして、恥知らずにも利己主義の先頭に立っている。若い世代の声は政治の世界には届かず、むしろその地域に住所だけ登録した賃貸人たちの声が、実際の居住者たちの苦しみを覆い隠しているのが現実だ。大学の学生寮、青年幸福住宅(※19~39歳の学生や新婚夫婦等のための廉価な公共賃貸住宅)などの建設計画が発表されるたびに、地域で住民たちが連合して蜂の群れのように反対に立ち上がるのを見よ。