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一番の障害は「小児性愛者」の存在……『はじめてのおつかい』がドイツではありえない理由

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世界も日本のようになればいいのに

 ドイツで『はじめてのおつかい』が難しい理由は、治安だけではありません。「子育ての価値観」についても、日本とドイツの間には根本的な違いがあります。

『はじめてのおつかい』を見てもわかるように日本では、子どもがお店に向かう途中で寄り道をしても、地域の人が暖かくそれを見守ってくれます。きっと「子どもは地域全体が見守ることで育つ」という価値観が根付いているからでしょう。子どもが1人でお使いをするとき、その目的は「商品を買う」ことだけでなく、大人との接し方を知るなど「学び」の側面もあるわけです。

 一方のドイツでは、「子どものおつかい」に対して、「大人の用事のために、子どもを利用するのは虐待だと思う」という意見もよく聞きます。「本来は大人がやるべき仕事を、子どもにさせている」とドイツ人は捉えるわけです。しかし、そんなふうに考えていたドイツに住む筆者の友人も、Netflixで『はじめてのおつかい』を見てからは、その可愛らしさと日本の田舎の雰囲気の虜になってしまい価値観が変わったというので、人間わからないものです。

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 ドイツと日本の両国で生活をしてきて思うのは、「世界も早く日本のようになれ」ということです。子どもがひとりでおつかいに行けるのは、周囲の大人の優しい心があってこそ。これまで述べてきたように、そうした雰囲気はなかなか一朝一夕で作り出せるものではなく、文化として貴重なものだと思うのです。

 もちろん欧米社会にも合理的で、日本よりよいところはたくさんあります。しかし、過去に「子どもをひとりでおつかいに行かせて、間違って店の物を壊したときに訴訟でも起こされたらどうするんだ」というドイツ人の懸念を聞いたときは、ちょっと悲しくなりました。だからやっぱり思うのです。世界も日本のようになればいいな、と。

一番の障害は「小児性愛者」の存在……『はじめてのおつかい』がドイツではありえない理由

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