「経営陣」に対する率直な思い
明松 だから、願わくは、お台場についての思いは、社長とまでは言わないけども、いわゆる経営陣に現場の肌感を理解してくれる人がいてほしいということ。やりたいようにやっていいと。その代わり「やりたいようにやっていいと言う俺を裏切るなよ。ちゃんと面白くしてくれよ。責任は俺が全部取るから」って言ってくれる人がいたらね……そうあってほしい。
大島 やっぱり「貧すれば鈍する」なんだろうな。「めちゃイケ」って、お金もそうだし、マンパワーもめちゃくちゃかけてたよね。それこそ命を削るくらいに。ああいうテレビの本気の番組っていうのは、今後は出てくるのかね?
明松 なんで我々スタッフが本気でお金も時間もかけられたかっていうと、めちゃイケメンバーが本気でその人生をさらけ出してくれたからなんだよね。その「人生劇場」を視聴者が、長年応援してくれたわけで。ただ、今後は、まだ才能が開花しきっていない若い演者を視聴者が見守って見守って、成長するのを応援するような番組は、生まれにくいと思うなあ。そんなに付き合ってくれないっていうか、優しくないっていうか、視聴者が。テレビ以外にも楽しいコンテンツが溢れてるからね。
ニュース、スポーツ、M-1……生放送が増える時代へ
大島 子どもたちは地上波をまったく見ずに、YouTubeしか見ない時代だからね。ところで明松は地上波テレビの今後についてどう思ってるの? 決まった時間にしか見られないっていう放送という形態は……。
明松 圧倒的に、利便性では劣るよね。「いつでも」「どこでも」見られるっていうNetflixとかに対して、テレビは、「決まった時間に」「家で」見てもらわないといけないから。TVerの同時配信が始まったことで「どこでも」のミゾが埋まった感じだけど、番組評価の第1プライオリティが、テレビのリアルタイム視聴率である限りは、「決まった時間に」「家で」の呪縛から解放されていない。
だから、テレビ画面から出てくる情報に対して普段では味わえない興奮を感じさせようとしたら、俺は生放送が増えていくのかなあって。ニュース、スポーツ……エンタメでいうとM-1グランプリみたいなこと。このテレビの前で2~3時間座っていたらスターが生まれるんだぞって言ったら、やっぱり座るじゃないですか。加えてスマホの画面よりもデカい画面という優位性もあるし。
大島 でもそれって、テレビの原点に戻るという感じもあるよね。そこに飛行機が映ってるだけなら誰も見ないけど、「この飛行機が今ハイジャックされています」ってテロップを入れた瞬間に皆が見るっていう、本当にそういうことだよね。あれ言ったの、横澤(彪)さん(「オレたちひょうきん族」などの名物プロデューサー)だっけ?
明松 横澤さん。座学で言われたな、新人研修の。よく覚えているね。でも、そのテロップって、演出論でもあるよね。ハイジャックじゃなくても、テロップ1枚が視聴者をクギづけにする、ということで言えば。やっぱり、演出力ってテレビを救う武器の1つだから、若いディレクターのみんなには満ブリして欲しいな。
「明松くんは何を表現したくて入ったの?」「は?」
大島 新人研修で習った「生放送」「演出力」が、27年経って、今後のテレビを救うかもしれないキーワードって、面白いな。
明松 そうそう、新人研修で思い出したんだけど、俺辞める時の最後の挨拶で大島の話をしたんだよ。「いち早く会社を辞めた同期の大島っていうやつの言葉がずっと残ってた」って。
大島 何か言ったっけ?
明松 研修の時に「あいうえお順」で席が近くてさ、休憩の時にお前に「ところで明松くんは何を表現したくて入ったの?」って言われて「は?」みたいな。「表現?」みたいな。
大島 理屈っぽい、ヤな奴だな。ぜんぜん覚えてないけど(笑)。
明松 「お笑いが好きで入ったけど、そんな崇高なポリシーで入ったわけじゃない」というようなことを言って。おれはもうそれで、「すげえ所に入ってきちゃったな」と思って。
大島 盛ってないか、それ?
明松 いやいや、インパクトが凄くあって。そういう発想をフジテレビに対して持っていなかったから、フジテレビの中にいれば表現していいんだっていう気づきがあった。「めちゃイケ」をやっているときも時々考えたよ。「何表現したいんだっけ? このオンエアは」「今週は何を表現したいんだっけ? めちゃイケは」って思うようにして。
大島 お恥ずかしいですね。
明松 俺の中では、相当大事にしています。
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フジテレビ退社後の明松は、営業時代に一緒に仕事をした広告代理店のクリエーティブディレクターと2人で合同会社「KAZA2NA(カザアナ)」を立ち上げ、CEOに就任した。「エンタメや広告、地方創生で、世の中に風穴をあけていきたい」と語る明松の顔は、晴れ晴れとしていた。
私は50歳を過ぎて大きな決断をした同期の成功を願うのと同時に、彼のような人材を失ったフジテレビのことを思った。時代は変わるし、組織も変わる。激変する映像業界の中で「これが唯一の正解」という答えはないだろう。だが経験上、現場で働く人間が生き生きと仕事ができる環境でしか、良いものは生まれないということだけは変わらないと感じている。フジテレビ復活のカギは、そうした場を働くスタッフに提供できるかどうか、ではないだろうか……と、ここまで書いてきたら「フジテレビの新社長に港浩一氏が内定」という一報が飛び込んできた。
「現場の肌感を理解してくれる経営者であってほしい」という明松の願いが通じたわけではないだろうが、港氏と言えば、バラエティの腕利きの演出家だった人物だ。私が知る限り、フジテレビではそうした経歴の社長は初めてであるし、スタッフからの人望も厚いと聞く。港新社長のもとでフジテレビの復活はなるか、注視していきたい。